『女子会』

金曜午後8時。都内のダイニングバーの店内は一週間の仕事を終えて、はしゃいだ様子の人々で賑わっている。窓際の円卓では、3人のアラサー女性が夜景を楽しみながらおしゃべりと食事を楽しんでいた。
「明美!妊娠おめでとう!」
「2人ともありがとう。びっくりしたでしょ?」
「当たり前よ。彼氏がいたことも知らなかったわ。電撃授かり婚だなんてびっくりよ。」
「まさか明美に結婚も出産も先越されると思わなかったなー。私なんて何のために毎日生きてるのって感じ。」
「何言ってるの。みな美は憧れの金融業界に就職して今では役職にもついてバリバリキャリアウーマンやってるじゃん。年下のイケメン彼氏もいて、素敵だよ。」
「まあね。確かにやりたい仕事はさせてもらってるよ。ただ、あいつの事はヒモみたいなもんだから。そんな事より、こと美は?最近どう?純也さんとうまくいってる?」
「うん。それなりに。私は主婦させてもらって子どももいないから、ゆっくりできてるよ。」そう答える こと美の顔色はすぐれない。口元にワイングラスを運ぶ手先が震えている。
「ちょっと、こと美大丈夫?顔色悪いけど。体調悪かった?」愛想笑いを浮かべながら曖昧に相槌を打つこと美だが、2人の友人の真剣な表情に観念したのか重い口を開いた。
「あのね、2人には言っておこうと思うんだけど、実は、純也くんと離婚話になってるんだ。遅かれ早かれ、、離婚、すると思う。」彼女の言葉は、鉛のように重くそして冷たかった。さっきまでの浮かれたお祝いムードとは一変し、息苦しい雰囲気に包まれる。
「なんで!?急に。あんた達ラブラブだったじゃん!」
「そんなことないよ。、、ほんとに恥ずかしいんだけど、、浮気されてたみたいで。女の人の影があるんだよね。子ども欲しいって言われてたんだけど、全然できなくてそれも原因の一つかなと思ってる。みな美は結婚式でスピーチしてくれて、明美は二次会の幹事もしてくれたのに申し訳ないわ。」
「そうだったんだ。。色々と大変ね。でも無理しないで。」明美が同情の眼差しを向ける。
「ごめんね。私は大丈夫だから、ありがとう。っていうか、今日は明美のお祝いでしょ!私の暗い話はこれでおしまい!今日は楽しもう!!」友人のおめでた婚祝いなのだから、自分の辛い話を持ち出したくないという彼女の言い分は充分理解できたし、相手に気を遣いすぎること美の性格から今日の食事会を台無しにするなんて耐えられないことだろうと察知した勘のいいみな美は、明るくこと美を元気付ける。
「そうね。でもこと美、とにかく体には気をつけるのよ。しばらく大変だろうけど。何かあったらいつでも連絡して。、、さて、明美!たくさん飲んで!、とは言えないから、たくさん食べて!栄養つけなきゃね!」
彼女たちの冷たくなった空気は、店内の人々の話し声と食器の音により、かき消された。誰ともなく、たわいもない話を始める。
「そうそう、明美。入籍はいつ頃の予定なの?」
「んー、それなんだけど彼の都合ですぐに入籍はできないんだ。この子が産まれるまでにはするつもりだけどね。」
「そっか。ところで、そもそもあんたの彼氏ってどんな人?全く想像つかないわ。学生の頃は明美本気でモテなかったもんね。彼氏いたことなかったでしょ。」
「みな美は相変わらず毒舌だね。ひどいなー。ま、事実ですけど。そんな私の彼はね、うちの会社の取引先の人でよく職場に営業で来て知り合ったの。それが出会い。」
「へー。職場で知り合ったんだ。あ、こと美。確か純也さんって、明美の勤めてるメーカーに営業でよく出入りしてるって言ってなかった?明美の彼氏とひょっとしたら知り合いかもね。」
「そうだったかな?純也くんあんまり仕事の話家でしないから。」
「知ってると思うよ。」
「え?」こと美とみな美が聞き返すと、明美はその問いには答えず、早口で話し続けた。
「それとね。彼、サッカーが得意で学生の頃は全国大会まで出たんだって。大学もサッカーでいけたんだ。って話してる。今はね、学生時代の友達と社会人チーム作ってサッカー続けてるの。試合も出てけっこういい成績残してるし。私もよく試合見に行くんだ。あとね、小学生のサッカーチームのコーチもやってて、週末は子ども達の指導もしてるんだよ。すごくない?平日働いて週末も子ども相手にサッカー教えてってすごいパワフルだよね。」
一気にまくし立てて話す明美に驚くみな美とこと美。明美の口振りには、攻撃的な殺気めいたものを感じ、こと美は少し薄ら寒くなった。そして、明美の話には違和感を感じる。明美が語る「彼」のことを、こと美はごく身近の知っている人物であるかのような気がしていた。
「へえ。。サッカー得意なんだ。すごいね。子どもに教えてるってほぼボランティアでしょ?子ども好きならいいね!育メンになりそうだし」呆気にとられながらも、みな美はムードを壊さないように意見を述べている。こと美は何も話すことができないままだ。
「ねぇ。こと美。なんで黙ってるの?私の彼氏の話つまらなかった?」こと美には思い当たる事しかない。夫である純也は、確かに明美が勤めているメーカーに取引先として出入りしている。そして純也はサッカー一筋の学生生活を過ごしてきて今も自身は社会人チームに所属し、子どものサッカーチームへボランティア指導を行なっている。変な汗が身体中から湧き出てくるのが感じられた。信じたくないという思いと、現実を直視しようとする思いが交錯する。
「こと美。私と彼のこと純也さんに聞いたらいいよ。私達がなんで今すぐ結婚できないかまで、なんでも知ってるよ。」
「明美?何言ってるの?さっきからあんたちょっと変よ。」みな美が怒りを抑えた声で、明美をたしなめる。みな美の言葉を無視して、無表情で明美は続ける。
「ねぇ、こと美。私のお腹の中にいるこの子のパパって誰だと思う?」

鳥肌がたちました。怖いタイプの短編小説も好きなので、このタイプの短編小説をもっと読みたいです!

チョコバニラさん コメントありがとうございます。小説を書き始めて日が浅いので、これからたくさん作品を投稿したいと思っています。これからもよろしくお願いします。