『azure』

夢を見た。

気がつくと右目に違和感があった、触れてみるとそれは酷く痛む。慌てて鏡を見ると私の顔には桜の花が咲いていた。目につく部分を確認するとどうやら左腕にも同じものがある。
ーーーなんだろう。
慌てて病院に行くと医師には、非常に珍しい奇病であり、処置を怠れば命に関わるという事。既に薬が開発されており、服用する事で大事に至ることはないという事。一度発症すると再発する可能性があるが花の種類は一人に対して一種類、私であるなら桜以外の花を付けることはないという事を、帰り際にもう一つ、この病は接触により移動するという事を伝えたれた。
帰宅し、処方された薬を飲むと目の下に咲いている花はすぐに散った。腕も同様だった。
ーーーなんて事ないな。
安堵し、そのままベッドに横たわり眠りについた。

目が覚めるとそこには見知った顔があった。
いや、見知った顔と呼ぶにはしかし相応しくない。私の知っている彼女ではなかった。
聞くと一月前に発症、異常な速度で進行し、花を付けた二日後には意識を無くしたという。
彼女の顔は半分以上、まるで世界の全てを詰め込んだかのような鮮やかな青色のスミレで覆われていた。
私はその症状を知っている、こうなってしまってはもう打つ手がないことも。
ーーー美しい。
そう思った。
少し前まで私の隣を笑顔で歩いていた彼女へ、気がつくと私はそっと唇を重ねていた。
瞬間、それまで儚くも咲き乱れていた花々は散り落ち彼女は目を覚ました。
「…!?なんで、こんな余計なこと……!!」
叫び泣きながら、彼女は私に何度もキスをした。
「なんで…、なんでよ……!!何で戻らないの!!」
その時私の脳裏には医者の言葉が蘇った。

ーーーこの病は移動します。

病室に置かれた鏡を見ると私の顔は鮮やかな青で覆われている。
「これで、よかったんだよ。」
そう言いながら、私は私に咲くはずのない花を贈ってくれた彼女を抱き寄せた。

夢が終わりふと
ーーーそういえば 青 が好きだったな。

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