『テープ』

「『よっと、撮れてるかな?

今年も夏が来ました。

青々と生い茂る木、力一杯鳴いている蝉。

この生命力にあふれた季節が私は大好きです。

自然の生命力を分けてもらえるようで、楽しくて、毎年心待ちにしていました。
 
でも、私がこの季節を生きられるのは恐らくこれが最後です。
 
このあいだ、お医者さんに命の終わりを告げられてしまいました。

知っての通り、私は生まれたときから病気と付き合って、手術と入退院の繰り返しで何とか生きていたけれど

そんな死の先延ばしも限界が来たようです。

本音を言えばもう少し生きていたいし、死にたくない。

でも、これまでの選択に後悔はしていません。

あなたと出逢えて、ここまで生きてこられた。

それにただただ感謝しています。

人は二回死を迎えると聞いたことがあります。

一つ目は、肉体的な死。

二つ目は、人の記憶からいなくなってしまう概念的な死。

もうすぐ私は一つ目の死を迎えます。

これは、もうどうにもなりません

でも、二つ目の死はどうか、もう少し先延ばしにしてください

完全に私のわがままですが、

もう少しあなたのそばで生きていたいんです。
 

そして、私から一つだけお願いです。

私の人生を、「早死にした可哀想な女の子」にしないでください。

短かったけど、最高の人生だったから。

だから、この最高の物語の最後を安っぽい商業バッドエンドにしないでください。

不気味な菊と薄っぺらい涙で迎える最後なんて絶対いや。

私が死んだら最高の笑顔で弔って。

それで、あいつバカだったよなーとか言って笑ってください。

後追い自殺なんて絶対にしないでください。

絶対、生きて。

「私の分まで生きて」なんて図々しい話だと思うし、そんなことは言いません。

だって、君の人生は君のものだから。

でも、生きることって本当に素晴らしいことだと教えてくれたのは他ならぬ君だから。

生きてください。

矛盾しているかもしれないけど、お願いします。

それが、私のハッピーエンド。

人より長く生きられなかった、

普通の人生を送れなかった少し残念な女の子の人生に「望んだ最期」という花を添えてあげてください。

あと、最後にこれだけ。

私はあなたと出逢えて、一緒に生きられてとっても嬉しかった。

幸せだった。

本当に、有難うございました。』

よし、これでいつ死んでも大丈夫。

なんか急にやることなくなっちゃったな―

死ぬまでにやりたいことリストをこなすほどの時間もないし...

もうちょっと生きていたかったなぁ。

ウエディングドレスとか着てみたかった。私の子供とかどんな顔なんだろ。

あれ、これ撮ったままになってるし。なんかしまらないなぁ。まぁ私らしくていっか。

…はぁ。

涙出てきちゃった。涙なんて使い尽くしたと思ってたのに、まだあったんだ。

本当は、もっと生きていたかったな。

幸せな人生だったことに変わりはないけどまだ生きていたいよ
 
死ぬのなんて怖いに決まってるじゃん

怖くて、寂しくて、悲しくてたまらないんだよ

死にたくないんだよ

でもさ、もうどうしようもないから

死ぬしかないから

叫んでもわめいてもどうにもならないから

だから、さっきも言ったけど絶対生きてね。

人生満喫して、私の人生こえるくらいの幸せものになってね

大好きだよ、ずっと。愛してる。」

この動画を残して彼女の灯は二日後に消えた。

一凛の立浪草を残して。

立浪草_タツナミソウ
 花言葉は「私の命をあなたに捧げます」

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