『White Love』

「白いカーネーションの花言葉は『純粋な愛』『私の愛は生きています』なんだって。今の私達にピッタリじゃない?」

 悪戯っぽく笑ってパスした純白の花束は、目の前で眉を寄せる彼の華奢な腕へポフッと音を立てて収まった。
 目深に被った黒いフードの裾で、束ねられた花によく似た白銀の髪が揺れる。

「…この花束、僕に?」
「そうだよ。だって私達…今日で付き合って3年でしょ?」

「…ね、私達結婚しない?」

 なんておもむろに言葉を紡げば、ふわりと初夏の薫りを乗せた風が純白の花束を優しく撫ぜて吹き抜けて行く。
 私を映すエメラルドのような瞳は驚いたように見開かれたけど…すぐに見慣れたニヒルな笑みへと姿を変えた。

「…そういうのは男の僕から言う事じゃないのか」
「良いでしょ、女から言ったって。私だって君といたいんだよ。…ね、白って素敵だよね。ウェディングドレスが純白なのも、ちゃんと意味があるみたいだし」
「『穢れや悪を払う』や『気分を一新する』というものだろう?僕も聞いた事がある」
「それ以外にもね、白って何にも染められてない色だから…『あなたの色に染まります』って新郎に伝える意味もあるんだって」
「…下らない。他のやつなんぞに染まるくらいだったら、最初から婚姻なんてしないだろうに」
「でも、ロマンチックでしょ?それに…君だってこういうの嫌いじゃないだろうし」
「…ああ。確かに、悪くはない」

 喉の奥でくつりと笑った彼は、目深に被ったフードの奥で、僅かに覗かせた双眸をフッと綻ばせる。
 透明な風にゆらりと揺れる白銀の髪はまるで…獲物を前に妖しく嗤う白蛇のようで。

 愛おしげに細められた翠色が、腕の中に咲く花を慈しむように撫ぜた。

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