『先導者』

『男はとある心霊スポットに行きました。その地域では最も怖い場所と言われている場所です。そこは墓地やトンネル、公園や廃墟と言ったありきたりな場所ではなく、ただの道でした。閑静な住宅街にある、ようやく車が2台通るような小さな十字路。その真ん中が有名な心霊スポットです。そこに行って帰ってきた者はいない、と言われています』

『その交差点では数十年前に交通事故で亡くなった方がいたそうで、若くして亡くなられたからか強い怨念がそこに遺されてしまった、というなんともありがち話があります』

『しかしこの話のオチはまだ先なのです。実はその男、奇跡的に一命を取り留めていたのです。とは言っても意識朦朧、虫の息であることに変わりはなく、いつ亡くなってもおかしくない容態でした。その最期が近づいている中、男が亡くなる前日からとあることを繰り返し呟いていたのです』
「まだだ……まだだ……」
『断続的に続きましたが、翌日の朝には止まってしまいました。そして男は身よりも無かったので弔う人もなく1人寂しく逝きました。しかしその恨みは強く、事故現場に居座ってしまっているそうです』

『話を戻しましょう。そんな心霊スポットに向かった男はちょうど午前2時に到着しました。交差点の真ん中に立ち、何が起きるのか恐怖と好奇心がせめぎあいながら待っていた。しかし何も起きなかった。男は残念がってそれぞれの帰路につきました』

『そしてそれ以上も以下もなく、この話はここで終わりになります。男は怨念を受けることも帰れなくなることもありませんでした』

『さて、ではここまでお付き合いいただいたあなたに質問をさせていただきますね』

『なぜあなたは既にこちら側にいらっしゃるのでしょうか』

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