『曲解』

 この世界は醜い。そう思い始めたのはいつからだったろうか。
 私が住むこの世界は人間が半分、機械が半分、とおおよそ過去の人類が想像していた世界になっている。
 そしてそれはいい面と悪い面をもっている。機械が劇的に増えたことにより、生産効率は飛躍的に上がり現在の総人口90億人を軽々と養えるだけの食料が手に入るようになった。しかし同時に環境破壊はますます加速し、人類の就職率はとてつもないほど下がった。
 それによって人類の貧富の差はますます広がるばかりだ。
 おかげで反機械製造運動なんてものまでできている。
 機械を作ったのは私たちであるのに。 
 でも反対運動を起こしている人には悪いけど、私は機械と私たち人類にそこまでの差があるのか、なんて時々おもうんだよ。
 なぜかって。私たちだってロボットと同じように年齢というベルトコンベアの上で教育という部品をつけられて出荷されてるじゃないか。そして定年という経年劣化でゴミ箱行きさ。
 なのになぜこんなにみんな騒いでいるんだ。
 だから私は思いついた。じゃあいっそのこと人間を機械化してしまおうと。そうすれば全て解決さ。ついでに人類の進化もできる。
 そこからは簡単さ。なんたって私は結構偉い地位にいる科学者なのだから。
 まず私は人間を機械化するための設計図を書いた。多分これには反対派が多数出てくるだろう。
 しかし案ずるな。私を誰だと思ってる。そんな奴らが何を欲しているか。
 地位か。名誉か。否、それは金だ。貧しいものは常にその日その日が暮らせればいいと思っている連中しかいない。すでに富をたくさん持っているものはもっと、もっと、と際限なく金を欲する。
 だから私は奴らに今までの研究で得た金を奴らに与えた。そして反対派がいなくなったところで人類機械化計画の開始さ。
 でもなんか語呂が良くないな、そうだ、人歯車計画と名付けよう。
 そんなこんなでこの計画は始動した。ただ実験隊の募集をいくらしても集まらない。そりゃあ死ぬかもしれないし、嫌だよな。私だってそんなのたまったもんじゃない。
 だから死刑囚を使うことにした。こいつらは番号で呼ばれてるから呼びやすいしな。
 実験は恙無く行われた。実験開始から約2年。ようやく完成した。
 出来上がったのは実験体6085番の時だ。こいつは濃い碧眼をしてるから紺と名付けることにした。
 こいつは人類の進化を加速させるのだ。そして私の望みは叶うのだ。

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