『ひきこもり 月給10万円 光熱費無料 朝昼晩食事付き』

高校を卒業してから8年、僕は部屋に引きこもる生活を続けていた。
ひきこもり生活を続けたいと思う傍ら、両親に迷惑をかけているという自覚もあり、このままの生活ではいけないなという罪悪感もあった。

ある日、母親がどこからか求人情報を仕入れてきた。
「K太、あんたにもできそうな求人があったわよ。」
「なんでも、部屋にひきこもってるだけでお金がもらえるみたい。すごいでしょ!」
「来週の水曜日に面接の予約しておいたから話だけでも聞いといで!」

んだよ、相談もしないであれこれ勝手に決めて…
こっちはゲームにアニメに色々予定があって忙しいんだよ。
でもひきこもってるだけでお金がもらえるのが本当なら、とんでもなく好条件な仕事だな。
ひきこもりになってからずっと金欠で困ってたし、お金がもらえるなら行ってみる価値はあるか、、

水曜日、僕は“異常なほど”好条件の会社の面接に来ていた。
「これから我が社について説明をさせていただきます。」
「今日の説明を聞き、条件に納得いただけるようでしたら是非入社をご検討ください。」

「入社?」
「僕は働くのが嫌だからここに来たんですが、、」

「大丈夫ですよ。うちの会社で言う“働く”というのは部屋にひきこもってもらうことですから。」
「K太さんが今までしてきたように部屋にひきこもっていてくれればよいのです。」
「逆に言うと“ひきこもってもらわなければいけません”」

「部屋から出てはいけないんですか?」

「もちろんです。“ひきこもること”が仕事であり使命ですから。」
「でも心配しなくても大丈夫ですよ。私たちが貸し出す部屋にはすべてが揃っています。」
「机、PC、Wifi環境、お風呂、トイレ、そして朝昼晩の食事、部屋の掃除をする使用人までいます。そして給料として10万円を支給させていただきます。」

「ちょっと待ってください。部屋を貸し出すってどういうことですか!?」
「何の面白みもない部屋に閉じ込められるなんてまっぴらなんですが。」

「確かに私たちが用意した部屋に住んでもらいます。ですがこの部屋への持ち込みは自由なので必要な物は全て持ってこれますよ。」

「うーん、、、それと部屋を掃除する使用人てなんですか?」
「部屋に他人を入れたくないんですが、、」

「それも心配いりません。掃除というのは食事の配膳やその他最低限のことだけですし、同年代の男性もしくは女性でK太さんと気の合う方に致します。」

(同年代の女性かぁ。しかも気が合わなかったら別の人にできるなんて、それなら悪くないかも。)
「まぁ、それだったらいいかな。」

「そうですか!弊社のシステムを気に入っていただけて光栄です。」
「それでは入社の意思が固まりましたら、こちらの契約書の内容を読んでサインをお願い致します。」

「あ、はい。」
僕は20ページにわたる契約書を手渡された。
(こういう契約書はお金の情報が書いてある部分を重点的に見た方がいいってどっかに書いてあったな)
給料は月10万円で、部屋から出る・使用人に危害を加える等の違反を犯さなければ毎月1日に振り込まれるみたいだ。
「よし。サインしました。」

「ありがとうございます。それでは早速来週の月曜日から勤務してほしいので荷物をまとめてここへ来てもらえますか。」

「わかりました!」

次の週の月曜日、面接した場所から車に乗って“部屋”まで移動したのだけれど、なぜか部屋に入った記憶がない。
車に揺られて寝てしまって、気づいたらいつのまにかこの部屋に連れてこられたみたいだ。
騙されたか?とも思ったが、面接で言われた通り、机、PC、Wifi環境、お風呂、トイレの全てがそろった部屋に自分が持ってきた荷物もある。
なんか慣れない感じだがまあいいか。この部屋で好き放題遊んでいればお金ももらえるし、親に迷惑をかけているわけでもないから罪悪感もない。
これから最高の生活が始まるぞ!

小学生の女の子がガラス張りの部屋を覗いて言った。
「おかーさん見て見てー。こっちの部屋にニホンザルがいるー。かわいいね~。」
「あっ、隣の部屋も見てー。パソコン見てニヤニヤしてるのはニホンジンだってー。」

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