『いたいカップル』

僕は人間観察が趣味で、毎日ここ富山県に在る、伊田井公園に訪れている。
今日は、僕の向かいのベンチに座って、睦み合っているカップルが観察対象だった。
人目を憚らず、見つめ合い、抱き合い、キスを繰り返す姿は実に痛々しい。
お互い心底幸せそうで、高揚してか、照れからか、それとも多少の羞恥心があるのか顔が真っ赤だ。
「私ね、憂くんのその綺麗な首筋をカッターで掻っ捌きたいの」
女は男の首筋を愛しそうに撫でながら言った。
「僕は哀ちゃんの可愛いおへそに、千枚通しを突き刺して、ぐちゅぐちゅにかき混ぜたいよ」
男は女の服の上から腹部を摩っている。これが、異体同心というやつか。
しかし、その会話は聞くに耐えない痛々しいもので、周囲に異様な空気を漂わせている。
 翌日、同じ公園の同じベンチに同じように痛いカップルは抱き合っていた。だが、明らかに昨日とは違っていた。目の前のカップルは、顔だけでなく全身真っ赤だ。ピクリとも動かず、周囲に異様な臭いを漂わせている。
「そうか、実行したんだな」
僕は、一人納得した。
二人をよく見ると、男の首はぱっくりと切り開かれていた。口の下に、もう一つ大きな口があるみたいで面白い。
女の手には、真っ赤なカッターナイフが握られ、腹部には何か刺さっている。昨日、男が言っていた千枚通しというやつだろうか。そして、女の足元には、赤黒い物体が幾つか落ちている。内臓の破片だろう。つま先でつついてみるとぷるぷると軟らかく、一時期流行っていたコラーゲン鍋を思い出した。
初めて見る光景や体験に、僕は強い興奮を覚え、ポケットから取り出した携帯端末で何枚か写真に収めた。よく撮れている。
「これじゃ、遺体カップルだな」
僕は写真を見ながらほくそ笑んだ。

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