『三題噺:夕焼け 電車 ため息』

ガタンゴトンと電車の振動に合わせて、座席シート越しに小刻みな振動が伝わってくる。
隣ではしゃいでいる子供を叱る母親の声が響くが、私はそれをぼんやりと聞き流していた。

もうすぐ、私の生まれた町に着く。
これから私は昔の約束を果たすため、そこに行くのだ。
もう四年も前、私は彼と一つの約束をしていた。

あの時とはすっかり変わっていた彼は、沈黙をもって私を迎えてくれる。
「ごめんね、仕事が忙しくてなかなか来れなかった」
なんとなく、目の前の彼がため息をついた気がして私も苦笑を返した。
きっと相変わらずだと思っているに違いない。
思えば私は、昔から何か一つの事を始めると周りが見えなくなるタイプだった。
それをいつも、彼は苦笑混じりに後ろから見ていた。
私がこの町を離れていったあの時もそうだ。
『行ってらっしゃい。これはお守りだよ。無事に帰ってくるようにね。でも、帰って来たらちゃんと返してよ?』
そう言って差し出されたのは丸い石の付いたストラップ。
こんなに遅くなってしまったが、それでも私は帰って来た。
彼にそっとお守りを返して私は笑う。
「怒らないでよ?……遅くなって、ごめんね」
小さく震えながら、私は彼の墓標を抱きかかえるようにして泣き崩れた。
「ただいま」

彼が亡くなったのはちょうど一カ月だそうだ。

冷たい石に、寄り添うようにして小さな石が光る。
それはあの日彼の背中越しに見た夕焼けと同じ色だった。
優しくて暖かく、それでいてどこか物悲しい色は、私にあの日彼が見せた笑顔を思い起こさせる。

そして今でも、私に笑いかける彼の茜色に染まった姿が脳裏に焼き付いて離れない。

――おかえり

記憶の中の笑顔が、そっと囁いた気がした。

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