『ヒーロー』

旅の途中、ヒーローのいる街に立ち寄った。

 その街は毎日ヒーローが現れるという事で有名な街だ。

 ヒーローのおかげでこの街は、悪者からの被害を最小限に抑えていると噂で聞いた。

 しかし、見渡す限り、街の住民は皆浮かない顔をしているように見える。

 俺は堪らず、住民にその理由を訊ねてみた。

「どうしたんだい? 浮かない顔して。今日もヒーローが大活躍したんだろ?」

 住民は俯きながら答えた。

「あぁ、そうだな。でも、ヒーローなんかいらないよ。はぁ、隣街が羨ましい」

 ヒーローに助けて貰いながら、なんて理不尽な奴だ。

 それとも隣街には、もっと偉大なヒーローがいるのだろうか?

 俺は、住民の言葉が頭から離れず、隣街へと足を運んだ。

 この街の住民は皆笑顔で街も活気がある。

 まさに平和を絵に描いたような街だ。

 やはり見立て通り、偉大なヒーローがいるのだろう。

「やぁ、今日もヒーローが大活躍したのかい?」

 俺が、そう訊ねると住民は満面の笑みで高らかと答えた。

「この街にヒーローはいないよ」

 俺は不思議に思い、辺りを見渡すと一つの看板に目が止まった。

 そこには、こう記されている。

(ここは、ヒーローのいない街。そして、悪者もいない街)

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