ひとざとを、とおくはなれたやまおくに、なまけもののオオカミがいました。
オオカミは、これといってすることもないので、あさからばんまで、ねてばかりいます。ですから、よのなかのことをよくしりませんでした。
ひるさがり、とかいからきたオオカミがあそびにきました。
「おい、おまえはうまいにくをしってるか?」
なまけもののオオカミは、とにかくめんどうくさがりやなので、もりのくだものだけをたべていました。
ですから、にくとやらをしらなかったのです。
「やれやれ、いまどきにくをしらないとは。そのにくはウサギといってね、ふもとにたくさんいるからいってみるといいよ。」
「よし!すぐにいくぞ!」
はなしをきいて、こうしちゃいられないと、あわてて山をおりたのです。
あたりはすっかりくらくなりました。
オオカミは、山のふもとまできて、ウサギをさがしはじめます。
「あれがそうか?フワフワで、ほっぺのおちそうないきものだな。きっとあれだ。」
オオカミはこのウサギをたべてやろうとおもいました。
ウサギにちかづいて、やさしくはなしかけます。
「こんばんは。」
「きゃー!」
ウサギはあしがすくみ、こしがぬけ、ひっしににげようとしましたが、つかまってしまいます。
「おまえがウサギとやらか?」
「はい。オオカミさんはウサギをめしあがるのははじめてで?」
「おれはあなぐらにいてな。にくとやらをたべるのははじめてだ。」
ウサギは、はぁ、とためいきをついてこたえました。
「オオカミさん、かくごはできています。そのまえに、こよいはまんげつです。さいごにどうか、お月さまにおいのりだけでもさせていただけませんか?」
「お月さま?なんだそれは、うまいのか?」
なまけもののオオカミは、いちにちのほとんどをあなぐらですごしていたので、月をみたことがなかったのです。
「お月さまをごらんになったことがないのですか?あちゃー。お月さまはこわいんですよ。」
「よるまんまるにひかるすがたは、あくまの目だまのようです。おまけに、お月さまのだいこうぶつは、あなたのような、つよいオオカミなのですよ。」
「なんだって?」
「いままであなぐらにいらしたので、お月さまにもみえなかったのでしょう。しかし、いまはこうして山のふもとにいるわけですから、みつかったらすぐにたべられてしまいますよ。」
そのときちょうど、もくもくとあらしがやってきました。
風がビュービューとなりはじめます。
「この音はなんだい?」
「これはお月さまのいきつぎですよ。もうすぐお月さまがこちらへやってきます。」
オオカミは、ウサギのことばに、すっかりおじけづいて、月を生きものだとかんちがいしました。
そしてゴロゴロとかみなりがおちてきます。
「この音はなんだい?」
「お月さまのおなかのおとです。いちどでもめがあったもんにゃ、パクッとたべられてしまいますよ。」
すぐにポタポタと雨がふりはじめました。
「この音はなんだい?」
「これはお月さまのなまつばです。」
オオカミはこわくて、生きたここちがしません。ガクガクからだがふるえます。
雨はさらにつよさをまします。
「ほら、たくさんのなまつばがおちてきています。にげないともうすぐたべられてしまいますよ。」
そして、くもがかくしていたお月さまをみせはじめました。
「ひゃー!!こわいよー!!」
オオカミはいちもくさんににげまわります。
しかし、月はオオカミをおいかけてくるではありませんか。
どんなにはしっても、オオカミのあたまの上にあるのです。
オオカミはお月さまがしずむまで、山のなかをねむることなく、はしりつづけました。
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