『プロキシマ・ケンタウリb』

3195年8月、プロキシマ・ケンタウリbと呼ばれる太陽系外惑星に不時着。宇宙船の計器が故障したため、緊急的にこの星で修理するハメになってしまったのだ。
プロキシマ・ケンタウリbは地球と非常に類似した惑星で、知的生命体による文明が存在し、異星人に対して非常に寛容な珍しい惑星だ。不幸中の幸いである。

プロキシマ・ケンタウリbではどこもかしこも木々が密集して生い茂っていた。住人は草食で、その木から採れる大量の木の実が主食になっている。
地球人に比べると文明のレベルは低いのだが、彼等の満たされた生活を見ていると納得だ。この星は彼等にとって楽園と言えるだろう。

しかし、そのせいもあって計器を修理する材料を集める事に苦労した。必要な素材が手に入らないのだ。
私は地表を調査するところから始めなければならなかった。
この星から脱出できる日はいつになるだろうか、少なくとも三年はかかる計算になる。

そんな中、一人のこの星の少女と出会った。彼女の名前はフラーナ。
私はフラーナに夢中になり、彼女も私に夢中になった。
そして私はフラーナと結婚した。
ある日、フラーナが私に話しかけてきた。
「私達、結婚したけど子供は作れないから、神様に怒られちゃうかもね」
「俺にはフラーナがいればそれでいいんだよ」
「でも私は嫌なの。だって子孫を残す事は私自信の存在価値なのだから」

そして私は自分の細胞を改造してフラーナに子供を授ける事に成功した。
「みて、私とあなたの赤ちゃんよ。こんな事ができるなんて信じられない」
私達は幸せだった。

それから数年後、フラーナの父が30歳の誕生日とのことで、お祝いのパーティが開かれる事になった。
パーティでは必ず家族全員が参加するしきたりになっていて、親戚である私もそのパーティに呼ばれた。
みんな本当に嬉しそうに料理を食べ、とても盛大なパーティだった。
そしてそのパーティの最後、奇妙なものが会場に持ち込まれる。
どこからどうみてもギロチンなのだ。
フラーナの父は自分の首をギロチンにセットすると、何の躊躇も無く自分自身でその刀を落とした。
ドシャー!
緑色の血しぶきが会場に飛び散るのと同時に、その場にいた全員は拍手喝采。
私は呆気に取られてしまった。

フラーナの父の遺体は、フラーナの母親の手によって地面に埋められ埋葬された。
数日経つと、埋葬した場所から木が生えてきた。そして一年後には立派な実を付けるまでに成長したのだ。
そう、ここに生い茂っている木々はすべて先祖が形を変えた姿だったという事なのだ。
私はフラーナに言った。
「30歳の誕生日でお前は木なんかにならなきゃいけないのか!? 一緒に子供を連れて宇宙に逃げよう! 俺がお前を絶対幸せにしてやる」
「なんでそんな事言うの? 私は木になってずっとみんなの為に生きていきたいわ! 宇宙なんかに行ったら私は何のために生きているのか分からないじゃない」

そして月日は過ぎフラーナの30歳の誕生日を迎えた。
フラーナは自分の首を自分で落として木になった。
しかし残念ながら私とこの子はこの星の木になる事はできないのだ。
私は我が子を連れてこの星を去る事にした。

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