『好かれ体質の月と嫌われ体質のすっぽん』

僕は嫌われ体質である。
ナアナアな関係だとそこまででもないが、他人との距離を近づけば近づくほど嫌われる。
エピソードを言えば、ある日相談相手だった上司と初めて飲みに行った際、何も悪いことをしていないにも関わらず、翌日には急に会話がなくなった。
そんな悲しい僕の会社には好かれ体質の同僚がいる。
名前は沢辺夏菜。夏菜は『かな』と読む。沢辺が挨拶すれば、必ずみんなが嬉しそうに返す。美貌と性格だけで済む話だが、それだけじゃない。ドジをしたら、必ず助けようとする人がいるし、一人で立っていれば、必ず誰かが近寄り、話すのだ。
そんな僕の沢辺は月とすっぽん。諦めざる終えなかった。
そんなある日、昼休みの食堂に沢辺がいた。
沢辺が珍しく一人でいた。観察しながら、昼食を食べて、やっと終わった。
つまらない観察だったので、食器を洗うおばちゃんのところに食べ終わりの汚れた食器を持ってく。そこで、同じタイミングで同じ行動をしている沢辺にぶつかり、その上食器が割れ、大惨事になった。
注目の的の中、沢辺は話しかける。
「大丈夫ですか?」
「はい、平気っす」
いつもの話し方で話していると、急に女性数名が沢辺のところに駆け寄った。
「先輩、大丈夫ですか?」
「先輩、服が汚れてるじゃないですか」などなど。
それでも構わず沢辺は安心させる笑顔で対応した。
それで、僕を置いて、去ろうとした。普通なら去れるけど、今回は違った。
なぜなら、沢辺が何もないところで転けたからだ。
女性数名がまた心配する中、謝る沢辺。
また立ちあがり、歩こうとするとまた転ぶ。
「あれ? おかしいなあ」
それでも転び、なかなか進まない。
それよりも、早く事務室に戻らなくちゃと急いで去ろうとしたら、途中で引きずられ、ぶつかる音がした。
「ちょっと待って待って……痛い!」
振り返ると、沢辺が痛い思いをして、引きずられ、椅子やテーブルの足に頭や脚をぶつけられていた。
それを見ていた女性数名の中の一人が僕に近寄った。
「ちょっと⚪⚪さん、なんで沢辺さんが痛い思いしなきゃいけないのよ! 今後妊娠するかもしれない体を傷つけないでくれる?」
「いや、僕はそういうつもりじゃ……」
「大体、なんであなたが動くと沢辺さんが痛い思いするか、訳分かんないのよ。あっ、もしかして、沢辺さんが可愛いからって、なんか離れないように仕組んでるんじゃないの?」
「いや、僕は違いますって」
「うるさい! それとも……」
反論が止まらない女性数名の一人。段々とその仲間も使用としていたそのときだった。
「あの、影がくっついてませんか?」
見知らぬAさんが話した。
女性数名は否定をしていたが、Aさんは話す。
「いや、完全に影が離れていませんよ? 下を向いてください」
僕と沢辺さんは下を向いた。すると影が細長い形でくっついていた。
ただそれだけだろうと思ったが、離れようとしても、影が離してくれない。
なんだこれ? と感じる僕。
不思議そうな表情をする沢辺。
「うそぉ~」
「やだぁ~、こんなの最悪!」
嫌がる女性数名。
「どうすんのよ! 先輩が可哀相でしょ?」
「ああ! もう先輩は大丈夫ですか?」
「心配しないで。大丈夫」
沢辺を見て思うのだが、こんな性格の悪い女性数名と一緒で嫌にならないか疑問に感じた。
まあ、そんな場合じゃないけど……。
そんな風に思っている間に、女性数名の二人が僕の方に駆け回り、左腕を掴まれた。
そして、沢辺も同じく腕を掴まれた。
「さあ、引っ張るわよ!
「いっせーのーででやるよ」
どうやら、僕と沢辺を引き離そうとしているようだ。
「いっせーのーで‼」
女性数名全員で言った。
そして、腕が痛くなるほど、互いに引っ張られる。もうもげそうになった。
「痛い痛い」と言っても、食堂にいる誰もが聞こえないくらい、盛り上がっていた。
お偉いさんが来たらどうしようと不安になるほどうるさかった。
――痛い、うるさい、誰も来ないで。
――そして、離してくれ!
『離してくれ!』と思ったのと同時に沢辺の声が聞こえた。しかも、『離して!』と同じことを思っていた。
その瞬間、なぜか体が痺れた。痺れが段々と強くなり、最高MAXのときに影と影が離れた。その直後、痺れは急激に消えた。あぁ、訳分からない。
「離れた……離れたわ」
女性数名が大喜びした。周りもあぁ終わったと去っていく。
良かったと思った僕だが、後で、関わってない人にまで上部や会長に怒られ、迷惑をかけた。
しかし、その出来事のおかげで、沢辺とは仲良くなった。

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