『不親切な世界の間で溺れる』

「全然だめだやり直し。」と言いながら上司は私に資料を投げつけた。
私は急いで拾い集め「なにが問題なのでしょうか?」と聞くと、「それぐらい自分で考えろ。」とゆで卵に爪楊枝4本差したような醜い中年男性はふんぞり返りながら言った。
私は必死に考えながらモニターとにらめっこをしていると気を失った。

「大丈夫ですか?」という声が脳の奥の方から聞こえてきた。
目を覚ますと私はベッドの上にいて、周りに看護師や医師がベッドの横にいた。
「私はどうしてここにいるのでしょうか?」と聞くと「今日はもう遅いので明日お話をしましょう。」と言って医師は部屋から出ていき、看護師が「目覚めたばっかりなので、安静にしていてください。病院の施設やシステムは明日の朝にお話をします。」と言って部屋を出た。
私は急にこの状況に怖くなり目を閉じた。
睡眠という世界に避難をして、この奇妙な現実という嵐から逃げようとした。

「ちょっと来い。」というライオンの咆哮のような声に私は震えながら目を覚ました。
そこは気を失う前の世界で、現実世界に戻ったと安心をしていたら醜い中年男性が怒りをむき出しにしてこちらを睨んでいる。
私はペットの犬が飼い主のもとに行くような速さでデスクに向かった。
「一回呼んだらすぐ来いよ馬鹿。だから仕事ができねぇんだよ。」
仕事ができないのは関係無いだろという気持ちは胸の奥に南京錠をかけてしまって、雰囲気的に「すいませんでした。」と言った。
「先方からクレームだよ。なんてことしくれたんだ。ウチの営業所の査定にも響くだろうが、何やってるんだよ。」
「すいませんでした。」
「謝っている暇があるならさっさと先方に連絡しろ馬鹿。」
私は急いでクレームに対処をするために内容をチェックしようとしたら、また気が失った。

私は暗闇の中にいた。
周りを見渡しても真っ暗で、出入り口のないトンネルの中にいるみたいで、「ここはどこなんだ。私は仕事をしないといけないんだ。」と声を上げると虚しく響き。
私はどうなってしまったんだと絶望し、性格の悪い悪魔達にもてあそばれているような気がした。
そんな時に「起きてください・・・起きてください・・・・」という声が悪魔達が造り出したトンネル中に響きわたった。
そして目が覚めると私はまた病院のベッドの上で寝ていて、周りには看護師と医師がいた。
医師は「うなされていましたが、大丈夫ですか?」と声をかけたが、私はその声を無視して「ここはどこんなんだ。私はなんなんだ。」とわめきながら医師の体にしがみついた。
「大丈夫です。安心してください。」
「大丈夫なわけあるものか、私はどうなっているんだ。早く現実の世界に戻してくれ。」
「ここは現実ですよ。」
「嘘だ、嘘だ。これは現実ではない。」
「あなたの言う。現実とはなんですか?」
「私は仕事をしなければならない。資料を作らいないといけないし、先方にも連絡をしないといけないし私はここでのんきに寝ている場合では無い。」
「それは幻覚ですよ。」
「嘘だ・・・嘘をつけ私はさっきまで仕事していた。たしかに仕事をしていた。」
「昨晩に睡眠導入剤を飲んで、あなたはずっと寝てましたよ。」
私は頭の中で七色の鮮やかな爆発が起こり、脳が活動を停止した。
今までの苦しみが全部幻覚で、この病院のベッドにいることが現実という事を、受け止めるのにはあまりにも私の脳ではスペックは低すぎた。
医師は私に熱心に説明をしてくれるが、全て耳には入ってこなかった。
医師と看護師が部屋から出ていくと私はまた気を失った。

「おい先方に謝りにいくぞ。」
私は幻覚の世界にまた引き込まれた。
「これは幻覚だ。」
「お前何いってんだ。ここは現実だよ。」
「嘘だ。さっきまで病室にいた。」
「いないよ。ずっとこのオフィスで仕事していたよ。」
「じゃあ、あの医者や看護師はどこに行った。」
「看護師も医者もいねぇよ。早く行くぞ。」と言って上司が部屋を出ていくので、私はデスクに置いてあった菓子折りとバッグを持って上司の後についていった。
あんなことを言ってしまったせいで上司との雰囲気は最悪だった。
信号待ちの最中「これは幻覚だ。はやく目覚めなさい。」という声が聞こえた。
どこからかあのヤブ医者の声が頭に響く。
私の体は勝手に動き出し、アイツを探した。
「おい!! どこに行くんだ。」上司が呼ぶが体は止まらなかった。
墓場をさまよう屍のように声の出どころを探した。
その時だ。
けたたましいブレーキ音と恐怖に取り憑かれた人の悲鳴がこの辺一帯に地獄の旋律のように響いた。

目が覚めると私はまたあの病院のベッドにいた。
凄く清々しい気持ちでいっぱいだった。
なんだが心の手械や足枷が取れたみたいで、この見慣れた病室が凄く神々しく見えた。
「ご気分はいかがですか?」ベッドの傍にいた医者が言った。
「気分は最高です。」
「それはよかった。やっと決別できたんですね。」
「決別?」
「そうです。あなたを愚弄する。あの忌々しい世界との決別です。」
おそらく前までの私ならこの言葉を受け入れることができなかっただろうが、今は受け入れることができる。
綺麗さっぱりと心を汚すサビを落とした私だから。
「はい!! しっかりとあのクソッタレな世界と決別をしました。」
「それはよかった。それでは行きましょうか、天国に最も近い場所三途の川へ。」

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