『女心とチョコレート』

 確かに、私はチョコレートのことが好き。
香りは甘くて、匂いだけで美味しいと分かる。一つ食べれば、口の中を暴力的なまでの甘さで満たしながらどんなストレスも溶かしてくれる。嫌いになる要素がどこにあるの?
肌荒れと体重増加さえ気にしなくていいなら、3食チョコレートでも構わない。
それぐらい、チョコレートのことが好き。

でも、チョコレートは私の敵なの。
甘い香りで私を誘い、とろける甘さで魅了する。
もう一個、もう一つだけとむさぼった結果、待ち構えているのは肌荒れと体重増加。
私を誘って夢中にさせたのはチョコレートの方なのに、私がつらい目に遭っていても知らんぷり。ね、ひどいでしょ!私はチョコレートのことが好きなのに、こんな目にあわせるんだよ!?

 前はね、敵じゃなかったの。むしろ、心強い相棒だった。
だって全然気にしてなかったもの。肌荒れも、体重増加も。
他人からどう見られていたって気にならなかった。だから、ほとんど毎日食べてたの。チョコレートをいつもカバンの中に潜ませて、ちょっとした時に食べてたの。友達に「太るよ」なんてからかわれながら。
でも、もうカバンの中にチョコレートはないよ。夏だから、とか、飽きたからじゃない。あなたと付き合い始めたからよ。

 私、チョコレートのことが好き。でもそれ以上にあなたのことが好き。
あなたには可愛いって思われていたい。でも、肌がボロボロだったり、体重があまりにも増えたりしたら可愛いって思われないでしょう?だから、

―チョコレートは月一回って決めてるの。」
にんまりと笑いながら、ぽかんとした顔の彼に説明した。チョコレートよりも大好きなあなた。「最近食べてないけど、嫌いになっちゃった?」なんて聞いてくれるほど、私を気にかけてくれてるあなた。そんなあなたが本当に大好き。チョコレートよりもね。

 後日、「これなら肌荒れもしないし太りもしないよ。」と彼から渡されたのは、チョコレートの香り付きリップだった。

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