『男心とソイソース』

「お前何であいつと付き合ってんだよ」
冷蔵庫の前で仁王立ちしながら、友人はニヤニヤ笑いながら聞いてきた。
俺は醤油が取りたいだけなのに、何でこんな無駄な問答をしなければならないんだ?
まぁ、別に答えるけど。
「俺が彼女のこと好きだから。ほら、答えたんだからそこどけ。醤油が取れないだろ。」醤油なしで冷奴はきつい。早く食べないとぬるくなってしまうし、何より午後の授業に間に合わなくなる。

だが、この答えは友人を満足させなかったらしい。冷蔵庫の守護神は新たな問答を繰り出した。
「じゃあ、あいつのどこが好きなんだよ。」
「かっこよくて可愛いところ。」
「は?可愛い?」
「あぁ。可愛い。」

そう。彼女はかっこよくて可愛い。
しっかりとした芯を持っていて、曲がった事が大嫌い。自分が違うと思ったら目上の人にも意見を言うことができ、自分が誤っていると分かったらすぐに謝罪することができる。そんな人なかなかいない。かっこいいし、尊敬してる。

それだけじゃない。かっこいいと同時にとっても可愛い。実は甘いものが好きなところ。食べるとすごく幸せそうな顔をするところ。意外と表情豊かなところ。可愛くないとこなんてない。
この前なんか、「僕に好かれたいからチョコレートは月に一回にしてる」なんて、すごく可愛いこと言ってくれた。
多分、肌荒れした彼女のことも、太った彼女のことも、僕は好きだろう。だから、気にしないで食べて…なんて、彼女の努力を軽んじるようなことは絶対に言わないけど。でも、彼女のチョコレートを食べてる幸せそうな顔はもっと見たいから、食べる頻度を週一回とかにしてくれないかな…。何かチョコ風味の何かをプレゼントすればもっと見られるかな…。

おっと、思考が逸れた。いかんいかん。
そう。彼女は凛々しくて、かっこいい、女の子が惚れちゃうぐらいのイケメンだ。それに加えて、優しくて、可愛い、最強の女の子なんだ。
なんて、こいつに言うつもりはないけど。

なぁーどこが可愛いんだよー、具体的に言えよーなどと、あいつはまだ絡んでくる。
誰が言うか。俺はライバルを増やしたくない。彼女の可愛いところは俺だけが知ってればいいんだ。
これ以上は何も言わないから早く醤油を取らせてくれ。

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