『見えてはいけない関わってはいけない』

私はなにか、買い物をしていた

のだろう。疑問形なのはここまでの記憶が思い出せなかったからだ。

パーカーに長ズボンいつも買い物に行く時の服装だった。

ただ何を買いに来たのか覚えていない。

気づいた時には近所のスーパーの入口の前にいた。

私がスーパーに入ろうとしたその時。

おかあさん。

母を呼ぶ声が私の背後から聞こえた。

知らない子どもの純粋無垢な声。

迷子なのだろうか少し涙ぐんでいるように聞こえる。

おかあさん、おかあさん。

また母を呼ぶ子どもの声が聞こえた。

妙に耳に残るその声を私はどこかで聞いた覚えがあった。

おかあさん、おかあさん、おかあさん。

少しずつ声が近づいているように聞こえる。

おかしい、私はこの場から一歩も動いてはいない。

いや動けないのだ。子どもの声が耳から離れない、私を呼んでいる訳では無いのに。

私に子どもはいない。蓄えがそれほどある訳では無いが2つの仕事をかけもちしながら生活している。

恋人もいない、両親とは年に一度会うか会わないかそれぐらいの付き合い。仲が悪いのでは無く単純に忙しくて連絡がとれていない。

子どもに関わる仕事ではないので余計分からなかった。

ふとひとつの考えが私の頭を支配するかのように浮かんだ。

友人の子だから、聞き覚えがあるのではないか。

いや違う。

確かに同年代の友人達は半数以上が結婚し子どもがいた。

全員の子に会った訳ではない。ただ母を呼ぶ声はそれのどれでもない、私は何故か確信していた。

おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん。

またあの声がした。声と私との距離は先ほどより確実に縮んでいた。

耳から離れない、私を呼んでいる訳では無い声。

知らないはずなのに、どこかで聞いたことのある声。

私が声の正体を突き止めようと考えているうちに声はやんでいた。

先ほどからあの声がしない。

静寂が辺りを包む。

その光景はまるで嵐の前の静けさのようで気味が悪かった。

その静寂を打ち破るかのように

おかあさん。

おかあさん、おかあさん。

おかあさん、おかあさん、おかあさん。

おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさんんんんん。

あの声がなみだくんでるあの声が悲しそうに、そしてどこか嬉しそうに私の背中から聞こえた。

暗闇が私の視界を遮り、そして頭の中を白い絵の具で塗りつぶすかのように意識が徐々になくなっていった。

私が今の状況に巻き込まれる前その夜にある夢を見た。

両親に愛されなかった幼い子の夢を。

酒癖の悪い父親は酒に溺れるたびその子を殴り、虐待していた。

子を愛していない母親は子を見るたび罵詈雑言を投げ、育児放置していた。

それでもその子は懸命に両親に尽くした。

私のお父さんとお母さんだから。

自分自身に言い聞かせるように呟いていた。

笑って、笑って笑って、笑って笑って笑って、少しずつ少しずつ世界からズレていった。

悲しき子には名前があった。

小鳥、子の名前は小鳥。

小鳥は籠の中の鳥だった。

私は子の名前を知り、動揺した。

何故なら私の名前も小鳥だったからだ。

籠の中の鳥は決して籠の外には出られない。出ては行けない。出ることが出来ない。

許されない。

日に日に酷くなっていく行為、それが積もりに積もり。

笑顔の裏に積もる闇が子を変えてしまった。

自分の手にかけた母を求める悪霊として。

おかあさん、おかあさん。

私の身体から母親を呼ぶ声がした。

今日も私はあの子と2人。

近所のスーパーの入口の前で、来るはずのない母親を待っていた。

私の体はその場から動けない。何故ならおかあさんがまだ来ていないから。

おかあさんが来た時その場にいないとおかあさんが困ってしまうから。

私は今日もこの場所にいた。

私じゃない小鳥と一緒に来るはずのない母親が迎えに来るのを待っていた。


どうですか、このお話凄くよく出来ているでしょう?

私の知ってる怪談話の中で、一番おすすめなんですよ。

ふわふわしてる部分はご想像におまかせします。

話は少し変わりますがこの話を聞いてアナタはどう思いました?

『 もしも他の人には見えないものが見えてしまったら』

『 母を呼ぶ声を聞いてしまったら』

と考えていませんか。

いや、おかしくないですよ。私も人に話すたびに考えます。

え?私ならどうするか、ですって?

私なら急いでその場を離れるだと思います。

何故ですって?

それはですね

『 アナタも私みたいにはなりたくナイデショウ?』

なんてね。

怖かったですか?

なら良かった話した甲斐がありました。

あの、このあと買い物に行きませんか?近くのスーパーが今日特売日なんですよ!

大丈夫ですってあれは作り話ですから。

ですがもし周りの人には見えていないものを見てしまったり、

聞こえない声が聞こえてしまったら、私の言った事思い出して下さいね?

こんばんは久利です。人生初ホラー物に挑戦しました。後味悪い書き方するつもりは当初なかったのですが、書いていくうちに指が勝手に…冗談ですよ。そして本当に申し訳ございません。思いついたアイデアから書いてしまう癖があり、他の作品の続きが出来ていません。気長に待って頂けたら幸いです。

(続き)書くつもりではいます。そして最後に私事になりますがショートショート用にTwitterアカウント開設致しました。マイページに載せています。投稿前にツイートするようにします。感想やサイト内のおすすめの作品などありましたら是非。ここまで読んでいただきありがとうございました。