キィエアアアア
それはまるで機械音のようなバックグラウンドで耳につき。
キィエアアアア
白昼、観覧車のベンチの上の、
くるくると回るあの箱を繋ぐそれが軋む音を思い出すような気がして。
彼女はあの日、公園のベンチで告げたのでした。
「どうかしている」
と。
俺にこれだけを言い残して去っていった、水色のワンピースが揺れて。
センスがない、酷くセンスがない。
しかしそれは僕も同じだったのかもしれない。
白昼夢、彼女に逢える時間だった。
目に見えない存在、名前も知っている元同級生、そいつの名前すら知らない世間知らずの女とこうして逢って。
理性に任せた世間体を気にしてこんな夢みたいな興味もない場所へ30分ほど滞在し、それから近くで休憩して狂っていくだなんて、確かに気が知れない、センスがない。
水色のワンピースを着た彼女を見て、そう、彼女は白を知らない。白痴な女だと心で罵りベンチをたった。
子供が二、三人、遊具で遊んでいる。デパートの上のパンダの軋んでいる愛情が僕にはわからない。
ねえこれって。
「ちょっと、待って」
抱き締めて、シャンプーと交じった汗の臭いと。
降り出したゲリラ。雷鳴が轟いたときに聴こえてくる。
キィエアアアア
キィエアアアア
狂っているかもしれない。
やめてと暴れる彼女を離せない僕もきっと。
狂っているかもしれない。
※※※※
模様は暗転して薄オレンジのネオンが生々しい。
彼女は健やかに隣に寝ていても、
例えば、デパート上の小さな遊園地でだってそう。ある一定で突拍子もなく、光を見つければ耳を塞いで叫び出すのです。
「キィエアアアア」
俺はこれに抱き締めて、「大丈夫ですよ」と、何度何時応えて来たのかわからない。その度に彼女は冷静になって言うんだ。
「どうかしている」
本当にその通りだと思う。
だけど君はいつだってそんなとき俺によがるではないかと。
俺にはそれが煩わしく。
鬱陶しくてそう、首を捻って殺してやりたくなることがあるけれども。
だって仕方がない。君はそう、頭が悪いから。
どんなに泣いていたって
「クソ野郎、あんたなんかっ、」と詰ったって
俺を結局捨てられない。
あの同級生と共にしでかした俺の後遺症に君はずっと怯えて、恐れて俺と共にこんなことして気が狂ってしまったのかと。
それが甘美で楽しくて。
あぁなんて。
どうしてあの時君は俺を殺してはくれなかったのかとまた、バックグラウンドを聞くような気がする。
ねぇ、どうして君の中にあった俺の命は。
ホームランバッター、センターバックオーライ。
どうして。
なんでいなくなっちゃったんだろう、2ヶ月目にして。
それなりに俺は。
だから仕事も探そうかなとか。
母親の墓参りにも行った、無くなってたんだけどそんなものは。
「入間くんのと付き合うことにしたの。だから…」
なんだって言う?
と言うか知ってるさ、入間と付き合ってたのなんて、あんた、だいぶ前から、
「だから貴方とはもう。
この子も、だから入間くんの」
あぁバックグラウンドが聴こえるよ。
入間が居ぬ間に陽炎のように、そして。
どうして気付いたらこうなっていたんだろう。
※※※※
東京都、町は広く人々が行き交い。
ビルも高く、何もかもが灰色に美しい。
片隅で、誰かが哀しみ誰かが喜び誰かが声を掛ける。
世界の片隅、白い現実の中を知るものはなく。
優しい人も冷たい人も。
知らない遠くの誰かが自殺をしたところで。
また新しく、何かが生まれる。
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