『子守する女』

 おんぎゃおんぎゃおんぎゃ……

 秋だった。
 よく晴れた高い空を一羽、二羽と懸巣が遊ぶ眠たい昼下りだ。
 綺麗に着飾った女が一人、重そうにして乳母車を押しながら河っペりを歩いてる。
 車の籠からは火がついたような赤ん坊の泣き声。
 赤ん坊か。丁度いい小腹が空いてた。
「ねーちゃんねーちゃん。重そうだの。手伝うか?」
 俺が河から女に声をかけると、
「あら、ありがとう。お願いするわ!」
 女が俺にニッコリ笑って乳母車を差し出した。
 ぽちゃん。俺が河から飛び跳ねて、車の持ち手に手をかけると、
「重くて困ってたの! あとはよろしくね!」
 女はそう言うなり、
「ケーーン!」
 銀色の尻尾を翻して草叢に消えてしまった。
「き、狐?」
 たまげて追っかけようとするが、俺の手が車にくっついて離れない!
「河太郎。今度はお前がお守か。よろしくな!」
 籠の中の赤ん坊が、しわしわの顔を俺に向けてニカッと笑った。
「こ、子泣き爺!」
 俺はまたまたおったまげた。
 それからかれこれ七年。
 俺は次の子守りを見つけようと今日も車を押しながら、ぺったりぺったり河原を這いまわってるのだ。

 いっちゃはんじゃさけた。

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