『月明かりに照らされて』

君と別れてから、三年ぐらい経ったね。

別れた理由は、今はもう・・・はっきりとは覚えていない。
ただ、覚えているのは、今夜と同じような月明りに照らされた、頬を伝う君の涙。
そして、まだ僕は君の面影を探しながら、夜の街を彷徨っている。

仕事で失敗したときには、何も言わずに僕を優しく、包んでくれたね。
君の優しさに甘えすぎて、何度も泣かせてしまったね。
一緒に笑ったり、悲しんだり、いつも二人で過ごしたよね。

好きな歌をいつも二人で口ずさんでいたメロディーを、
ストリートミュージシャンが歌っていた。

ねえ、実はさ・・・また仕事で失敗しちゃって。
それでさ、いつも二人で遊んでいた街に何となく来たんだ。

この街は何にも変わっていないよ。変わったのは、君が僕の側に居ないこと。
そして、左手首に巻かれた包帯。

手首にナイフを押し付ける前に、君に送ったメール、読んでくれたかな?
もう一度、君に優しく包んで欲しかった。

すると、スマートフォンにメールの着信が。

内容は、「空を見上げて」だった。僕は、ふっと夜空に目を向けた。

二回目のメール着信。

「遠く離れても、同じ月を見ているよ」

月明かりは僕を優しく包んでくれた。
そして、今夜は 僕の頬に涙が伝った。

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