『壺』

ある召使は、水汲みの為に2つの壷を持っていました。

天秤棒の端にそれぞれの壷を下げ、首の後ろで天秤棒を左右にかけて、彼は毎日小川で汲んだ水をご主人様の家まで水を運びます。

ただ、その壷の1つには、ひびが入っていました。

もう1つの完璧な壷が小川からご主人様の家まで、一滴の水もこぼさないのに、ひび割れた壷は召使が水をいっぱい入れてくれても、ご主人様の家に着く頃は、半分になってしまうのです。

完璧な壷は、いつも自分を誇りに思っていました。
なぜなら、彼が作られたその本来の目的を、彼は常に達成する事ができたからです。

そして、ひび割れた壷は、いつも自分を恥じていました。
なぜなら、彼は作られたその本来の目的を半分しか達成する事ができなかったからです。

2年が過ぎ、すっかり惨めな気持ちになっていたひび割れた壷は、ある日、川のほとりで水汲み召使に意を決して話しかけました。

「僕は自分が恥ずかしい。そして、きみにいつも申し訳と思っているんだ。」

「なぜ、そんな風に思うの？何を恥じてるの？」
と水汲み召使は言いました。

「この2年間、僕は、このひびのせいで、きみのご主人様の家まで、水を半分しか運べなかった。水が漏れてしまうから、きみがどんなに努力をしても、その努力が報われる事がない。僕はそれが辛いんだ。どうか僕を粉々に割ってくれ。」

と壷は言いました。

水汲み召使は、ひび割れた壷に言いました。

「これからご主人様の家に帰る途中、道端に咲いてるきれいな花を見てごらん。それを見たらそんな気持ちはなくなるよ。」

天秤棒にぶら下げられて、丘を登って行く時、ひび割れた壷はお日様に照らされ、美しく咲き誇る道端の花に気づきました。

色とりどりの花は本当に美しく、壷はちょっと元気になった気がしましたが、ご主人様の家に着く頃には、また水を半分漏らしてしまった自分を恥じて、水汲み召使に謝りました。

すると召使は言ったのです。

「道端の花に気づいたかい？花が君の側にしか咲いていないのに気づいたかい？僕は君から零れ落ちる水に気づいて、君が通る側に花の種を蒔いたんだ。そして君は毎日、僕達が小川から帰る時に水をまいてくれた。この2年間、僕はご主人様の食卓に 花を欠かした事がない。君があるがままの君じゃなかったら、ご主人様はこの美しさで家を飾る事はできなかったんだよ。」