『光の川』

東京の満員電車は現代における一種の拷問器具だ。
詰められ、押し潰され、圧縮される。
私は満員電車が嫌いだ。

初めて東京の満員電車に乗った事は今も忘れない。
田舎の山口から上京した次の日。
初めての講義の日だ。

人混みと人混みが更に人混みになっているような駅のホーム。
人の波に飲まれるように列に並び、私は電車をじっと待っていた。
頼れる友人もなく、たった一人。
とっても心細かった。
アナウンスが流れ、電車が遂に到着した。
私の地元では考えられない車両の数。
その車両の全てに、既にみっしりと人が乗っている。
私の目にはとても人が乗れるようなスペースがない。
出入口が開き、わっと心太のように人が溢れ出すが、やはりそれでも乗れるスペースは少ない。
次の電車を待とう。
私はそう考えた。
でも、東京の出勤ラッシュに慣れた周りの人達はそうではなかった。
私の体はコンベヤーに乗せられた工場の部品のように強制的に電車の中に流されていった。
あれ?
ちょっと待って!
そう思ってももう遅い。
我に帰った時、私はもう蓑虫のように人の波の間で浮いていた。
人の間にぎゅっと挟まれると、人間は浮くのだ。
そのまま大学のある二つ前の駅まで、私はずっと浮いていた。
この出来事で、私は満員電車が

社会人になり数年。
昔のように人混みに襲われる事はないし、流される事もない。
満員電車にももう慣れた。
でも、相変わらず満員電車は嫌い。
それでも、一つだけ好きな事がある。

それは、職場に向かう途中で見える多摩川だ。

雲一つない蒼穹。

そこから降り注ぐ太陽の光。

乱反射する光が輝き、私の瞳を満たしていく。

その光を見る度に、私はもう少しだけ頑張ろうと思う。
今日も頑張ろうと思う。

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