『間抜けな兵士』

 とある国に、戦争兵器・武器の大好きな学生がいた。彼は学校が休みになると、隣町にあるミリタリーショップに通い、様々な戦争兵器のレプリカを買った。戦争兵器は、彼にとって非常に魅力的で、格好良く見えた。彼の夢は、いつか戦闘で本物の戦争兵器を使ってみることだった。

 数年経っても世界は平和なままだった。彼も社会人になった。社会人になっても、彼の戦争兵器好きは止まることがなく、コレクションはどんどん増え続けた。彼は仕事終わりや休みになると、頭の中で戦争兵器を使うシュミレーションを繰り返すのが習慣になった。空想の中で殺した敵の数は数百人にもなった。

 彼が25を迎えた時、待ちに待った世界大戦が起こった。彼はすぐに志願兵になり、戦争に参加することにした。彼は自分の手で多くの敵を倒したかったので、最前線に立つことを強く希望した。彼はこの日のために、日々イメージトレーニングをし、筋トレも欠かさなかった。

 まだ若く、健康体であった彼は、希望通り戦争の最前線に行くことができた。彼は大喜びで戦地に赴いた。

 彼は戦闘センスに優れていた。

 何年も続けていたイメージトレーニングのおかげか、勘が鋭く、敵がどこにいるのかすぐに見つけることができた。さらに、何年も続けたイメージトレーニングのためか、射撃の腕が優れていた。狙った獲物は百発百中で、戦友たちを驚かせた。彼は人を殺すために生まれたかのように、夢中で敵を殺し続けた。その数は数百人。瞬く間に彼は英雄となった。

 彼が英雄となった要因に、敵の殺傷数が関係していることはもちろんだが、実は他にも大きな要因があった。彼は戦争兵器のデザインに執着していたのだ。最新の戦争兵器が配給されたのにもかかわらず、彼はデザインがいいというだけで、一昔前の戦争兵器を使い続けていた。もちろん機能は大きく落ちる。しかし、彼は旧式の兵器を愛し、その兵器で敵を殺し続けていた。もちろん、普通の人ならすぐに敵に殺されているだろう。

 国中のメディアが彼を取り上げた。彼にはファンクラブができた。また、ミニタリーショップに彼モデルの戦争兵器レプリカが並んだ。国の人々は彼を「神童」と呼び、賞賛の言葉を口にした。

 彼はインタビューでこう答えた。

 「今時、戦争兵器は機能だけではいけないのです。デザイン、機能の二つのバランスが取れてこそ完璧な戦争兵器と言える。特にオールドデザインの兵器を私は好みます。ヴィンテージはいい。古いというだけでロマンを感じる。そんな古い兵器を使って大丈夫かって?心配ご無用。私が戦争兵器を手にすれば、機能がいくら粗悪であっても、一度に100人の敵を殺してみせますよ。」

 彼の言葉は説得力があった。次第に人々は、彼がどれだけ古い兵器で人を殺せるのか期待するようになった。彼は国民の期待に沿うべく、使う兵器をどんどん旧式の兵器に変えていった。

 調子に乗った彼はさらに敵の死体を増やしていった。彼はいくら古い兵器を使用しても、多くの敵兵を殺し、帰還してくる。有言実行する彼を人々は次第に「神童」から「鬼の子」と呼ぶようになった。

 しかし、彼も無敵ではなかった。あと少しで殺人数が1000人になろうとした頃、あっさりと戦死してしまった。国の誰もが彼の死を悲しんだ。各新聞は「神童の死」「無念、神の子の最期」「天才の残した戦歴」など様々な見出しを一面に書いた。しかし、彼の死の理由はどこにも書いてなかった。敵に斬り殺されたのか、撃ち殺されたのか、はたまた地雷を踏んでしまったのか。国民は何も知らされることがなかった。

 彼が死んだニュースが流れた同日、彼は敵側のメディアにも取り上げられた。敵側の新聞に、小さい記事が載った。

「間抜けな兵士 戦地でとても間抜けな兵士を見つけた。よほど自信があったのか、彼はたった一人で我らが軍の中に突っ込んできた。彼は遠くから一発の銃を撃った。その一発は見事兵士の頭に命中し、一人の兵士を殺したが、その直後、銃を撃った敵兵も動かなくなった。おかしいと思い、兵士の一人が敵兵の様子を望遠鏡で確認すると、彼はうずくまって、何かしている。その姿はあまりにも隙だらけだった。我らが軍は隙だらけの敵兵をすぐさま射ち殺し、何をしていたのか確認をした。すると、彼の横には火縄銃が落ちていた。我らも舐められたものだ。」

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