『いい子』

僕はお母さんの言うことは何でも聞くよ。
だって僕はいい子だからね。

『いい?内側から開けれるけれど、私が出てきていいというまで決して出てきちゃだめよ。』
お母さんはそう言って僕を鉄製の箱に入れた。
中には水と食べ物、それに懐中電灯。
お母さんが内から鍵をかけろというのでかけた。
僕はいい子だからね。

戦争中だった。
お母さんは僕の安全を考えてくれたのだ。
『もうすぐ戦争は終わる。
終わったら帰ってくるからね。危ないから出ちゃだめよ。』
そう言ったお母さんを信じて僕は待つ。
僕はいい子だからね。 

外で大きな音がなっても、お母さんが棒を入れてくれた箱はとても丈夫なようだから僕に被害はなかった。
だから僕は外に出なかった。
僕はいい子だからね。

中は暗くていつが朝なのか、いつが夜なのか、何日たったのかわからなかった。
隙間を少し開ければ外を見ることは出来る。
でも僕はそんなことしなかった。
僕はいい子だからね。

懐中電灯の電池が切れて、辺りが真っ暗になっても僕は外に出なかった。
僕はいい子だからね。

食べ物がなくなって、お腹が空いても僕は外に出なかった。
僕はいい子だからね。

水が無くなって、喉が乾いても僕は外に出なかった。
僕はいい子だからね。

戦争が終わってずうっと経ってから、鉄箱の中から干からびた死体が見つかった。 
男の子は最後まで、帰ってこないお母さんを待ち続けたのだ。

彼はいい子だからね。

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