『潜む。』

心臓が音を立てて脈打つ。
この部屋には誰かいる。
私とあの人以外に。
2人暮らしのはずなのに。

彼女は毎日のように言う。
「また動いてる。何なのよ……」
私が使った後、元の場所に戻さないからだ。
彼女はきっちりしているから、きっとだらし無い私が嫌なのだろう。
最近ではもう怖がるほどに。
彼女には潔癖症なところがあるからなぁ。

彼女とは生活の時間の違いで、私が部屋に堂々といられる間は彼女は大学に行っている。
見るといえば彼女の寝顔くらいだ。
私はそんな生活でも幸せだった。
とても、とても。

けれど、おかしい。
ここ1週間ほど違和感がむくむくと湧き上がる。
私は彼女がいない間にも外出したりする。
その間に、物が動かされている気がするのだ。
誰か…ここに潜んでいるのか?
私と彼女の城に。

夜、彼女が寝静まった後。
私は日課のように彼女の寝顔を見に起き上がる。
彼女を起こさないよう、そっと。
するとカサリと何かが動く気配がした。
やはり、誰かいる。
ぱっと振り返って見れば、男がいた。

「誰だ」
私は言った。
「…お前こそ…」
相手はくぐもった声で答えた。
「先にお前が名乗れ。
場合によっては…どうなるか…
正直に言えよ。」
相手はしばらく黙り、口を開いた。
「彼女の…ストーカーだ…」
相手は彼女を指差し、答えた。
全く何てやつだ。
「一週間くらい前からだな…?」
違和感を感じだした頃。
「…そうだ…。
お前は…!?
彼女には彼氏がいるなんて聞いてないぞ!?」
ふぅ、3ヶ月ほど前からいると言うのに。
こいつの情報収集能力は…。
私はため息をつきながら落ち着いて答えた。

「君と同じだよ」 

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。