『ビビビ』

「運命の人と出会うとビビビとくるのよ」

お夕飯を食べているとき、お母さんが言った。
ビビビなんて表現、イマドキ聞かないよ。私がそう言うと、お母さんはムッと眉間にシワを寄せた。
「本当なんだから。お父さんと会ったとき、ビビビッときたのよ」
「そうなの?」
「そうなのよ」
お母さんは真面目な頷いた。

「お父さんと出会ったのね、嫌なことがあってやけ酒した帰りだったの」
フフフ、とさっきまでの険しい顔から一転、思い出し笑いを浮かべながら楽しそうに話すお母さん。私は水を差さないように真面目な顔できいていた。
「酔って転んだお母さんをお父さんが手を引っ張って起こしてくれたのよ。そのとき…手が触れた瞬間にね、そこからビビッと電流みたいのが走って、私この人の恋人になりたいって思ったのよ」
「ふぅん…」
ビビビ、ね。正直ありえないと思う。でも、お母さんの嬉しそうな顔を見ていると本当であってほしくなる。だって、本当だったらとても素敵だから。

「お父さんもビビビときたの?」
仕事帰りのお父さんにきいてみると困ったような顔をした。
「こなかったの?」
「いや、確かにビビビとは来たよ」
「え、ほんと!?」
私は驚く。ただ、お母さんと違ってお父さんは微妙な顔だ。照れてるんだろうか。
まあ、お父さんもお母さんもそうなら、運命の出会いは本当にビビビっとくるものなのかもしれない。
「ビビビとはこなくても、素敵な人なら一目惚れはあると思うよ」
お父さんは優しく私の頭を撫でた。

(本当は静電気だったんだよなあ)
俺がセーター着てたからだろうなあ、と父は思ったが、誰にも言わないことにした。
ビビビと来なくたって、運命の人と出会えればそれでいいのだ。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。