『とある落日』

 孤独と言うのは肌身離さず難しい。
 男は電車の斜陽に乗客を眺めた。

 ここには女や男や子供や老人が居合わせるに関わらずそれぞれが個体として生きているとしてエンターキーを打ち込んだ。
 いまの自分にあるものは鼓動と酸素と景観、現状…スペースキーで溜め息を吐く。終わった刹那にまだ自分は一人かと察するばかり。

 停まってどよめきは一体とするとき、「停止信号です」と響けば息が止まるような一瞬、…より長く出る静かな動揺は皆共同墓地へ捨てられるように「この電車は小岩駅の車両点検の影響にて」と纏まらないスピーカーにまたか、が行き交うばかりで。ならばこの線路の途中をどうするというのか、各々敷き詰められた人身事故が成り立つ。

 ここで待っていたところで人が息絶えたかは定かでないも空気は濁って溜め息になるしかないのだ。さぁどんなやつが酔狂に溺れたのか知る由もないのだから世界平和は他人事に消える。

 落日、それは真っ赤な意識にあるのみで。あの空が青かったのは今日の昼まででしかないと、行き場のない電車の孤独に行くしかない。孤独と言うのは遥か彼方で忙しい。

 路面電車の赤い花の手向けにはデータ不良に形も残さない。明日死のう、そう思って文書を閉じたことを誰も知らない。

 身近にある非日常はいつでも等しく孤独だった。ふらっとどこかへ生きたくなるのは、誰にでもある魅惑でしかなく、自分の足で立てるのが幸いかと、青い電車の線路の足は洗われるだけ。
 夕日が綺麗だと言いたければ、飛ばず走らず寝てるがよいかと目を閉じる。

 誰かがそう、小難しい孤独を考えた。

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