『若返り薬の効能』

エフ氏は優秀な研究者として非常に有名だった。
エフ氏のこれまでに開発してきた薬の中には、不治の病と言われていた難病を治すことに成功した薬もあった。
そんなエフ氏は長年の研究の末、ついに若返りを実現する薬を開発することに成功した。
ネズミを使った実験では、その薬をほんのすこし食べさせるだけでそのネズミが若返ることが実証された。

ネズミを使った実験の成功から数日後、エフ氏が家でくつろいでいる時に家のチャイムがなった。
エフ氏が扉を開けると、そこには手にナイフを持った、すこしはげかけた男が立っていた。
「あなたがエフ氏ですね?」
「そうだが、その手に持っているその物騒なものは何なのかね?」
「見てのとおりナイフです。大人しくしていれば殺さないので、言うことを聞いてください」
「はて、君の望みはなんなのかね? この家にはお金などないが」
「私の欲しいものはお金ではなく若さです。最近若返り薬なるものをエフ氏が開発しているという噂を聞きました。その薬を私にくださらなければ、この場であなたを殺します」
「殺すなんてそんな物騒なことを言わないでくれるかね。薬ならあげよう。ただし条件がある」
「条件とは何ですか?」
「この薬はまだ人体実験が行われていない。だから君がもしその薬を欲しいのであれば、私の目の前で若返り薬を飲んでくれないかね? 私も人間が若返り薬を飲んだ際のデータが欲しい。そうしたら警察にも言わないでおいてあげよう」
「若さを手に入れても警察に捕まったんじゃしょうがない。分かりました。ではその条件をのみましょう」

エフ氏は男を部屋に上げ、机の上に置いてある一つの小さなガラスの瓶を指差した。
「これがその薬じゃ。計算上ではこの薬を一粒飲むと、だいたい3歳若返るはずなんだが、君は何歳若返りたいかね?」
「20歳ぐらい若返りたいので、7粒飲んでもいいですか?」
「ふむ、ではこれを飲みたまえ」
そう言ってエフ氏は瓶から7粒の薬を取り出し男に渡した。
「これで俺はまた若くなれるぞ!」
そう言って男はその若返り薬を一気に飲み込んだ。

すると、すぐに男の身体に変化が起き始めた。
すこし薄くなっていた髪の毛が徐々に生え始め、また徐々に顔つきも若くなっていった。
「これはすごい」
そう男は喜んだが、喜ぶのも束の間だった。
男の背は徐々に縮み、また顔つきもどんどん幼くなっていった。
「これは一体何なんだ。もう20歳以上若返っている」
声変わりをする前の高い声で男がそう叫ぶと、エフ氏は微笑みながら答えた。
「実は、一粒飲むと3歳ではなく10歳若返るんじゃ。君の年齢はたぶんもともと40から50歳ぐらいじゃろ。年齢以上に若返る分量の薬を飲んだらどうなるのかの実験じゃ」
「おい、ふざけるな!」
そう男は叫ぼうとしたが、その叫び声はエフ氏にはただの赤ちゃんの泣き声にしか聞こえなかった。
そして、そのままその男の姿は消えてしまった。

「うーむ、やはりこの薬はなかなか実用化するのは難しそうじゃ。分量を間違えればこの世の中から消えてしまうのだからな。」

面白い。存在前まで遡りましたか。オチが効いてますね。