『無題』

 溺れてしまったこの恥じらいに私は浮遊を恐れうつ伏せになったのでした。

 そこに立っている貴方を見ることもないように顔も背けていれば、幾らか死ねるような気すらしたのです。ですが私はその貴方が誰であるかを知る由がないのでした、と無様で滑稽だとどこか俯瞰するばかりで致し方ない。

 そのような時は大抵水蒸気と霞の違いすら認知出来ていないのです。貴方はそれに何故覗き込むのか、力無くして触れようとしたらそれは刺激物が見せる靄だったのだと知り、ああ、息が湿っていると翳した手には何も残ってなど居ないのです。

 何度も何度も繰り返してはそうやって未来を見ることが出来ると一種甘えに逃げ惑い、満足もなくただ、今日は何日だったっけと普通が道を開くのです。

 誰を裏切るのも勝手で、そういった人間には大して意味もなく行く先は同じ、自分の赤色を見て満足をするものなのだから、私も私で慢性化する。

 何故見下ろしている貴方にそう触れただけでわかった気になれたのでしょう。
 私は恐らく前向きだったのです。何れ程に染まろうと、苦しかろうとそれがあるから肯定が出来た筈でした。

 解った気で高説を垂れ流す者の耳を削いでしまいたいということすら、それがあるから君は生きているんでしょうと触れた気になっていた。

 感触がない貴方は一体誰だったのでしょうか。
 もし本当にそれが正しいのなら、ここに貴方がいる筈でした。

 汚れてしまったこの馴れ合いに私は苦痛を望み仰向けに仰いだのでした。

 誰がこの手を取ったのかは知る日が来ないと、知らないままの大人の心が頬に注ぐ言い訳は聞きたくなかった。

 あの浴槽で君が君を見つける日まで。可哀想だと手を踏みつけたい。

水の底に沈んで、ぼうっと眠ってゆくような、不穏で心地よい感覚を味わいました。