『夜霧』

確かな形を手元に置いておきたかった。それ程までにこの関係は、純粋でいて真っ直ぐで あまりにも か細いものであった。辺りは足が沈みゆく程、深い霧に覆われていた。私はカメラ片手に、霧を掻き分け 宛てもなく歩を進めた。視界は遮られ、衣類と肌の間を冷たい風が寄り添う。
この地は一体、何を運んで来てくれたのだろう。私の意が通じるのでしたら、愛に従ってもいいのだと、許しを下さい。そう愁い、レンズ越しに覗き見える世界は白く淡く乏しかった。この機を逃さまいとシャッターを切る。液晶画面には見慣れたはずの光景が薄墨色に染まり、光達がそれぞれ散っている。こんな写真、使い物にはならない。
私はただ…あなたが写り込んではくれないかと…。
会いたいと何度 願えば、運んできてくれるのでしょう。視たくても視えない、これでは怖くて進めない。今の私達に この時間は必要なのか。微生物のような非力な私の叫びは遠く掻き消され、やがてこの夜霧も立ち去っていくのだろう。取り残された私は何をすればいいのだろう。
私はもう…歯痒くて仕方ありません。

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