『8月10日』

私は彼女であるセリナの働くフードコート内にある寿司屋にいた。もともとセリナが働いているとも知らなかった私は驚いた。私はカウンター席に座った。腹が満たされればいいと思っていた私は、注文をしようとしていた。するとそこへセリナが私のところへ水を運びに来た。驚いた。なぜいるのだと疑問を抱き、質問してみた。部活は?というのもセリナは高校生で部活をしていた。しかし私は部活をやっていなかった。すると驚くことにセリナは部活?と返してきた。ここで私は異変に気付いた。しかし目の前には確かにあのセリナが寿司屋の制服で立っている。
異変に気付いたのだが、確認のしようがなく、私は注文をすることにした。しかし、メニューはあるものの店員を呼ぶ呼び鈴もない。しばらく考えていると、隣に家族連れの団体が座ってきた。席数が2席しかないのに、4人が座ろうとしていた。私は端っこの壁にもたれかけるように座っていたため、その4人に押される形となった。太った父親と細い母親と小学校ぐらいの兄と小さい妹がいた。母親が座るのかな、と思ったが隣はなんと父親だった。さらに、父親と一緒に座るのが妹のほうであると思ったが、母親が一緒に座っていた。私はぎゅうぎゅうの箱詰めの状態で、少しはこちらのことも考えてくれていると思い、私が苦しいことに感づいてもらえるように様子を見ることにした。しばらくしてその家族が注文をしようとしていた。その家族は前方上にあるモニターを操作して注文を取っていた。なるほど、と思った私はその父親に感づいてもらえないまま苦しそうに席を立った。どこかいい席はないかと探していると、テーブル席があり、空席がちらほらあった。空いていた席に向かうとき、ほとんどの客がトレーの上に味噌汁と箸を載せて食事をしていた。私もと思いそれらを探したが、どこにも見当たらない。近くをセリナが通ったので、聞いてみると私の隣にそれらがあった。自由にとってもいいのだろう大量に味噌汁が置いてあった。しかも湯気がたっていて熱そうだった。トレーはやけに小さいものばかりで、ほかの客が使っているような大きいトレーは見当たらなかった。まぁいいやと思いながら私はそのトレーに味噌汁と箸をおいた。 
 それらを取った私は、ある家族の隣のテーブル席に座った。席に着こうとした瞬間、私はなぜかバランスを崩し、トレー落としてしまった。幸い味噌汁は無事だが、隣の女の子のトレーも落としてしまった。その少女はなぜかバナナを食べていて、それがぐちゃぐちゃになって落ちた。少女はかなり怒っていたが、私はその少女の親とは一度も話さなかった。
 私はその席を離れ、別の席を探した。奥へと進んでいくと、電気がついていない個室の焼肉かなんかの店があった。よくわからず見ていると、席のことを思い出し、戻って探そうとしたが、トレーを持っていないことに気が付いた。その店に夢中でどこかおいてきたらしい。トレーを探していると、元のテーブル席が見当たらなくなった。おそらく私はまっすぐ進んだだけだと思うのだが、見当たらなかった。
 私がうろうろしていると、セリナが私を呼んでいた。セリナを見つけ、セリナのもとへと歩いた。彼女であるため会いたかった情もあり、私は状況を忘れた。セリナと話しながらさらに奥へ行っていることも知らず、私たちはガラス張りの外がよく見えるスペースについた。そこで私はあんなことやこんなことを想像していると、セリナは私にプレゼントがあるといい、タオルをくれた。スポーツタイプの厚手のタオルは、やや重みがあり、しっかりしていた。私がタオルを見ていると、セリナはそのタオルを取り、私の視界を遮るように頭にかぶせてきた。何事かと思い、タオルを取ろうとしたがなかなか取れなかった。そんなことを疑問に思う前に私はすっかり考えるのをやめていた。うれしかったためである。タオルの隙間から青い箱がちらちら見えた。なんだろうとわくわくしながらタオルを取っていると、いるはずのない私の母とその姉、さらに姉の息子がいた。
親しく交流がある親戚ではあるが、彼女がいるということは言っていないはずだ、なんてことは考えることもせずに、その姉はなにやら騒いでいた。ようやくタオルを取ることができた私は、セリナからその箱を受け取った。するとその姉がわたしのもとへ寄ってきて、後ろ手に手首をつかみ左に引っ張ってその手首を持ち上げた。痛かったが、耐えられる痛さだった。煽っているのか、ヒューヒューといって何回も持ち上げた。何回もやられるとさすがに痛くなり、痛いというとその姉はすぐに私の手を離した。セリナは帰る準備をしていて、はじめ見た時よりも荷物が一個増えていた。とても一人では持てそうにないほどの荷物であったため、話さないものの目で周りに訴えかけていた。正直、面倒くさかった私は、ガラスの外に見える景色を見ていた。すると下のほうで人が何やらもめ事を起こしていた。興味があり、ぜひ近くで見たいとガラスの下に扉があったため、そこから外に出た。1メートルくらいの足場があり、そこに立って見ていた。戻ろうとしたとき、足場がゆっくりとしたに動き出した。慌てて足場を見ると、中に人が乗っていて、エレベーターであることが分かった。振り返ると、心配そうな視線を向ける彼女らがいた。
 戻ることができなかった私は、ほかの人にばれないことに徹した。エレベーターの上に乗っているため、十分に高さがあった。エレベーターは上下だけではなく、前後左右に動き、複雑な動きをした。しばらくするとエレベーターは徐々にスピードを落としていきとある建物の前で止まった。ここだと思い、2メートルくらいの高さをジャンプした。足に衝撃はきたものの、走ることには支障はない。元のフードコートがあった建物に戻ろう、私はエレベーターが通った道を引き返そうと思ったが、夜で明かりが何もなかったため、目の前に見える小さな通りから戻ることにした。しかし、その道は一本道で、見たところ脇道もカーブもなかった。しかしはっきりとわかる道がここしかなかったため、その道を走ることにした。
 しばらく走っていると、住宅街が現れた。明かりは家の小さいものしか光っていなくて、街灯もない道に不気味にたたずんでいた。目の前に3人の家族が歩いていた。こちらに向かうように歩いていて、父親は極度の猫背で、母親は小さい娘と手をつないでいたため、前かがみの姿勢で歩いていた。どこか暗い、覇気というものを一切感じ取ることができなかった。距離が近づくたびに私はとてつもない恐怖が体中に広まっていくのが分かった。しかしいざすれ違うと、異様に背が高く、顔は小さな光では照らすことができなかった。
 どのくらい進んだのだろうか、長い住宅路の右わきに、看板が立ててあり、何やらこの先に丁字路があるようだ。私はそこを目指して走った。
 丁字路に着くと、急に周りが明るくなった。後ろを振り返ると先が見えない黒に小さな光が並んでいた。
 右を見てみると、大きな門がたっていて、その先にそれは大きな建物があるのが見えた。あそこに違いないという根拠のない自信が込み上げてきた。私は門へ走った。門を通り過ぎるとき、上を見ると、周りは明るいにも関わらず、そこにはどこまでも続くような黒があった。

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