『白百合の花』

泣いている僕を見ながら君は笑う。
「あなたは、昔から変わらないわね」
そう言うと僕の右手を握る。
「これからは泣いても手を握ってくれる人は居ないんだから、あまり泣いたらダメよ」
いたずらっぽく言った君に、僕は答えるように細く小さくなった手を握り返す。
病魔は着実に彼女の身体を蝕んでいた。
君はふと思いついたかのように言う。
「そうそう、私の棺桶にはユリの花を沢山入れて欲しいの。私達が出会うきっかけになった花だから」
本当は喋るのも辛いはずなのに、君はくしゃくしゃの笑顔で笑う。
「愛してくれて、ありがとう」
君の瞳から流れる一雫の涙が太陽に反射する。夏風に運ばれたユリの香りが、仄かに部屋に広がっていた。

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