『空に咲くは桔梗の花』

数年前に廃線になった駅のホーム。
私は一人、花束を持って立ち尽くしていた。
「一緒に星を見るって約束したじゃん」
入道雲が浮かぶ夏空にぽつりと呟くと、地面に花束を置いた。
あなたと笑った日々を思い出す度に、行き場のない喪失感が溢れて胸を締め付ける。
「これから私、どうやって生きればいいのよ」
そう言うと、涙が後から出てきて止まらなかった。
あなたと過ごした日々が、まるで濁流のごとく頭に流れ込んでくる。
初めてあなたと出会ったときのこと。
初めてあなたと一緒に曲を作って歌ったこと。
二人で授業を抜け出して先生に怒られたこと。
放課後の教室、赤点になった私に勉強を教えてくれたこと。
そして、あなたと二人で星を見たこと。
そのどれもがまるで、昨日のことのように鮮明に思い出せた。
「ごめんね」
あなたのそんな声が聞こえたがして顔を上げると、そこにはあなたが好きだった桔梗の花が咲いていた。
「謝っても許さないよ」
泣き腫らした声で言うと、乾いた入道雲が浮かぶ空を見上げた。
あなたがいなくなったことは、最後の日まできっと信じることは出来ないだろう。
それでも私は…。
胸に広がったあなたとの思い出をしまうと、ゆっくりと立ち上がった。
私はとびっきりの笑顔で桔梗に笑いかける。
「また来るね」
そう言うと、私は夏の匂い漂う駅のホームを出た。
一人見上げた夏の空は、いつになく澄み渡っていた。

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