『遠くの世界は君の色』

子供の頃から夏が嫌いだった。
凍えるほど澄んだあの青い空を見ると、言いようのない喪失感に襲われる。
まるで心が無くなってしまったかのようなあの感覚が嫌いなんだ。
だから僕は旅に出る。
僕の知らない遠い世界見ると、空いた心の穴がその世界の色で埋まっていくような気がするんだ。
帽子を深く被り直すと、僕は立ち上がる。
「今日はどこに行くの?」
君はいつものように、笑顔で僕の隣を歩く。
「今日はいつもより少し遠く行こうと思ってるよ」
そう言うと君は軽い足取りで駅へ歩いて行った。
僕は一度足を止めて、空に浮かぶ太陽に目を細めた。
「こんな夏なら悪くないな」
広々とした快晴の空にそう呟くと、道の先で君が手を振っていた。
夏の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、君を追いかけるように僕も歩き出した。

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