『空に響く歌声』

昔は夏が好きだった。
夏の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、空を見上げると、なんとも言えない不思議な気持ちになるからだ。
あの感じが、たまらなく好きだった。
でも今空を見上げると、あなたを思い出して涙で何も見えなくなってしまう。
涙で未来までぼやけていっている気がして不安になる。
「本当にバカだよね」
ふと零した言葉。
もし、あなたが居たのなら黙って抱きしめてくれたかもしれない。
でも居ないんだ。
分かっている。
分かっているんだ。
あなたと二人笑って空を見上げていられるだけでよかった。
あなたと二人歌えるだけでよかった。
ただそれだけでよかったんだ。
涙を拭い、今日も私はギターを持って歌を歌う。
空の向こうで聞いているであろうあなたの為に。
そして、あなたが描ききれなかったまだ見ぬ空を描く為に。

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