『平凡な画家』

天才ってのは本当に凄い。
どんなに頑張って努力しても、決してその背中には追いつけない。
だから凡人は、何倍も何十倍も努力しなければならないんだ。
努力を辞めた時、凡人は凡人以下になってしまう。
それがとてつもなく嫌で、僕は誰が為でもなくあの空を描き続けた。
天才にほんの少しでも近づきたかったんだ。

そんなある日だった。
「綺麗な絵ですね」
驚いて振り向くと、一人の女性が立っていた。
少し困惑したが、また前を向き直す。
「ありがとうございます」
そう一言お礼を言うと、僕はキャンパスに向き直り絵を描き続けた。
その女性は次の日も、その次の日もやって来た。

ある日、僕は不思議に思って女性に聞いてみた。
「他にも絵を描く方は沢山いるのに、なんで僕なんかの絵を見に来るんですか?」
女性は少し驚いた後に、ふふっと笑う。
「確かに絵が上手い人は沢山いるけど、迷いなく描くあなたの絵が、わたしはとても好きなの」
その時、僕の中で何かが弾けたような気がした。
「変わった方だ」
僕は一言そう言うと、キャンバスに向き直り再び絵を描いた。
今度は誰が為では無く、あなただけの為に。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。