『朝の色』

 時に、朝の極彩色が聴こえない。
 僕は目を覚ます。

 さっきまで見ていた夢は一体なんだったのだろうと悲しくなることがある。

 右耳に映した感情が痛い。

 どうしてこんなにぼやけて胸の音がするんだろう。世界が酷く狭い、自分だけが呼吸を速めた気になってただ、新しい朝焼けでとどめを刺したいから窓を開けてみる。

 空は広くてまだ遠いのに。
 風の音もない世界。

 誰か泣いていた気がしたのに。
 幸せだった気がしたのに。
 機械音のような味しかしない。

 冷たい朝が肺に刺さるとき、どうして僕は生きているのだろうと夢で見た色を思い出そうと耳を済ませる。

 あぁそうか、今日は難聴の日。

 空って一体何色なんだろう、今日は雨かもしれないのに、どうして雲が一つもないんだろう。

 あの雲は水分と氷片。その風は酸素と塵とあと何か。

 僕は今日も灰色で生きている。
 君は今日も空色に溶けている。

 滲んだ世界に曖昧と明瞭。この耳鳴りにもう一度溶けてしまおう。

 遠くで死にたくなった朝の世界は晴れて雲ひとつのない、いつも通りの心地に笑う。
 今日の呼吸で今を食べる。眩暈のような、僕の色。目に見えないから、丁度良い。

 おはようと世界が言った。

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