『ネコのカタチ』

猫は度々、「アイツに捨てられるくらいなら、こっちからどっかへ消えてやる」と言っていた。猫の飼い主が乱暴なのは、この界隈では有名な話だった。ただそういうことは年に1回あるかないからしく、普段は仲良く楽しく暮らしているとのことだった。
死期を悟ると姿を隠すという話は知っていたし、危険を感じれば猫は自分で逃げるだろうと思っていた。
そしてそんな話のあと、猫はいつもこう付け加える。
「もしどっかに消えても、お前は見つけてくれよ」と。

だが、現実はそう上手くはいかなかった。
猫は捨てられた。
雨水で地面はぬかるみ、生ごみの臭いが詰まった薄暗い路地裏に。
まあ、それだけならまだ良い方だろう。
目の前にいる猫は、猫であって猫でなかった。
まあいつも目にするあの猫だとすぐにはわかったが、もう猫の形を留めてはいなかったのだ。
路地裏には猫のにおいが漂い、他の存在を圧倒していた。
私は静かにしゃがみこみ、唯一無傷な顔を見やる。そして長いまつ毛を載せたまぶたに手をかざし、夜の月に反射して鋭く光る目をゆっくりと眠りにつかせてやった。
「よく眠れよ」

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