『冷たい』

季節に置いていかれる泡沫の日々は、とても切なくて、それでいてとても美しい。
心象に浮かぶあの日々は、決して色褪せることなく僕の心に腰を下ろしている。
土の匂い混じるあの夏風を、止むことのない蝉の声を、青すぎる空に浮かぶ入道雲を、僕は今でも思い出すんだ。
夏の思い出が忘れられないんだ。

「昔のままずっと変わらないでいてくれ」
暗い無機質な空にそう呟いた。
僕は、降り注ぐ雪から自分を守るようにマフラーを巻き直す。
拭いきれない不安と恐怖を隠すようにして、消えかかる街頭を頼りに僕は歩き出した。
胸の中で輝く変わることの無い日々を眺めながら。

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