『桜の色は何色だろうか』

空に響くメジロの声がやけに鮮明に聞こえる。
パイプ煙草に火をつけながらぼんやりとそんなことを感じていた。

もうあれから何年も経つが、この季節が来ると否応なしに思い出す。
透き通る様なあなたの声を。
愛らしいあなたのこげ茶色の髪の色を。
真っ直ぐなあなたのその瞳を。
もう誰も覚えていないかもしれない。
それでも儂だけはずっと忘れないでいよう。
例え誰もからも忘れ去られようとも。
世界が終わるその時まで。

爽やかな春風が、桜の花びらを美しく散らしてゆく。
「今年も綺麗な桜だ」
そう言うと、桜吹雪の中でゆっくりと笑う。
あなたと過ごした日々を心象に浮かべながら。
空を飛ぶ鳥の声を聴きながら、煙草の灰を捨てると、ゆっくりと立ち上がる。
今年の桜はいつもより少し滲んでいて、それでいて、いつもより一層寂しく思えた。

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