「ぽぽぽぽっ、ぽぽ…」
ひどく懐かしいその声に顔を上げると、降りしきる雨の中…目の前で細められる目と真っ白なワンピースが視界に入った。
…ああ、この人だ。優しい微笑みも、真っ黒な長い髪も、雨に濡れる白い帽子も、俺の記憶と何一つ変わっていなくて。
しゃがみこんで俺と目を合わせたその人は、端正なその顔に微笑みを貼り付けたまま、雨で冷えたその手を俺の頬に添えた。
伝わって来る体温と、いっそう深さを増す笑み。…ああ、本当に魅入られているのはどっちなんだろう。
「ぽぽっ、ぽぽぽ…」
冷え切ったその手に自分の掌を重ねれば、その人は嬉しそうに…慈しむように笑った。
意識が遠のいて行くのが分かる。頬に触れる感触も、確実に強まって行く雨足も、全てが全て別世界のようで。
力の抜けて行く衝動に身を任せて、俺は静かに目を閉じる。
「ぽぽぽっ…」
視界が完全に閉じる直前、瞼の下から垣間見えたのはあの人の優しい微笑みだった。
この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。