『雨宿り』

雨が降っている。

もともと外に出た時には黒くて分厚い雲が垂れ込んでいて、少ししてぽつりぽつりと降り始め、それからすぐに土砂降りになった。数えきれない大きい雨粒が空から落ちて、アスファルトに当たって小さく散り散りになる。

通行人は皆揃って駆け足で通り過ぎていく。散り散りになった雨粒を知らない顔して踏み潰して、蹴散らしていく。人は皆このゲリラ豪雨から逃れたいらしい。

雨が降っている。

ワタシはもう閉まってしまった花屋の前で雨宿りをしながら、なんとなくその様子を眺めていた。
忙しない人々と降り注ぐ雨。
それは一時的な気休めでしかない。今日はついさっきまで快晴だった。澄み渡る空は、ワタシには似合わない。

雨が降っている。

この分厚い雲は、いつかはこの空からなくなって、またきっと真っ青な空が明日には顔を覗かせる。ワタシの明日は、いつ来るのだろう。

雨が止む。

あんなに凄まじい勢いで降っていたはずの雨は急速に勢いを失う。速足で歩いていた人々も思わず空を仰いだ。
分厚い雲の隙間から、少し陽の光が差している。
ふと自分の手を見ると、爪と指先の間に少し血がこびりついていた。きちんと洗い流したつもりでも、落ちなかったのだろう。

「また晴れる前に、ネカフェにでも行こう」

ワタシは花屋から離れ、また雨の降る地に戻っていく。すぐそこの団地から、ボールを持った子供たちが勢いよく走り出していった。

パトカーのサイレンの音を遠くで聞きながら、その反対方向に足を進めた。

ーFinー

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