『優しさを愛する』

世界が崩れる。
命が燃え落ちる。
この想いを伝えるのは今しかない。
そう思い、止まない雨の中僕は外へ飛び出した。

明るく黄金色の光を放つ空から降り注ぐこの黒い雨は、まるで天からの罰のようだ。
そんな事を考えて歩く僕の頭上を、轟音を立てて爆撃機が飛んで行った。
あの爆弾が、あの街に、あの場所に、あの人の元に、落ちなければそれでいい。
ただそれだけでいい。
あと峠をいくつか超えれば、彼女の住む街が見える。
僕は歩く足を早めた。

「悲しみも、苦しみも、全てを分かり合えたら良いのにね。そしたらこんな戦争も起きないのに」
いつだったか、彼女が言っていた言葉だ。
僕は、それを綺麗事だと言って笑ったっけ。
彼女は、いつだって人の為に頑張る優しい人だった。
そんな彼女が、僕は大好きだったんだ。
頭上を飛び去るミサイルは、そんな僕らを嘲笑うように落ちていく。
それをただ見るている事しか出来ない僕は、無力そのものだった。
その日、彼女の住む街に大きなキノコ雲が咲いた。

とても大きな死の雲が。

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