『初デート』

今日は土曜日。私は休日だというのに朝の9時にベッドから這い出た。カーテンを開けると太陽が眩しい。
今日は待ちに待った隆さんとの初めてのデート。集合時間は昼の12時。時間的にはちょうどいい。
私はいつもより念入りに歯を磨いて、身だしなみを整えた。初めてのデート。何かミスがあったら全てが台無しだ。

11時40分には集合場所の緑山公園に着いた。5分後、集合時間までまだ15分あったが、思ったより早く隆さんも集合場所にやってきた。
「ゆみちゃん、もう来てたの?」
「うん、今日がすごく楽しみで、早く着いちゃった!」
私は普段より少し高めの声で返事をした。その声が私の鼓膜を揺らす。やはり普段の私の声と違い、少しだけ気味が悪い。
「俺もゆみちゃんと会うのが楽しみで、絶対俺の方が先に着くと思ったのになあ」
そう言って隆さんは爽やかな笑みをその顔に浮かべた。

その後私たちは近くのパスタ屋に行き、何気ない会話をしながら、昼ごはんを食べた。緊張していて、味はほとんど感じられなかった。
「これからどうする?」
「うーん、隆さんの部屋に行きたい!」
私はまたちょっと高めの声を使った。こんなところ家族に見られたらたまったものじゃない。
「俺の部屋? 全然いいよ! すぐ近くだから!」
集合場所は隆さんが指定したが、それは隆さんの住んでる場所のすぐ近くだというのを私はもちろん知っていた。

部屋に上がると、私が来ることを見透かしてたかのように、部屋の中は綺麗に片付いていた。紀子のものは一切目につかなかった。紀子は今出張で海外に行っている。
「飲み物入れるし、そこに座ってよ」
私は隆さんの言われるがまま絨毯の上のクッションに収まった。

私はそのままその日のうちに隆さんと男女の関係になった。好きでもない人との行為は苦痛ではあるが、それでも私は我慢をした。
目的はただ1つ。私は隆さんとベッドの上で写真を撮った。

帰り道にその写真を紀子に送った。
紀子は隆さんの現在進行形の彼女。
紀子は私の彼氏の浮気相手の女。
そして私の唯一の親友だった女。

こんなことをしても、少し前までの楽しかった日々が戻って来るわけではない。時計の針は巻き戻せない。
空を見上げると、満月が夜空に輝いていた。遠くから犬の遠吠えが聞こえた。

ある種、ディストピアですね(笑)。