『細雨の温もり』

 さああ、と鼓膜を揺らす微かな音。その心地良さに目を閉じた彼女はふと「…雨、だね」と口元を綻ばせた。

 「…雨、好きなんだっけ?」
「うん。今日みたいに、あんまり強くない雨が好き。少し肌寒いくらいが、ああ、私って生きてるんだなあ、って思わせてくれるの。…自分がちゃんとあったかいから、同じような温もりが欲しくなるの」

 こんな感じにね、なんて俺の肩に頭を預けた彼女はへにゃりと曖昧に笑う。
 まだまだ晴れそうにない空模様と、俺達だけを包み込んだ藍色の世界。隣で微睡んだ彼女は確かに温かくて、俺もつられてフッと笑みを零した。

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