『小人さんがやってくれる』

疲れた男が博士に相談した。「仕事が楽になる発明はないか」。
 博士は両手を打って「それならちょうどいいものがある」と言い、棚から消しゴムぐらい小さな人形を取り上げた。
「なんだ、これは」
「これは、君の仕事を人知れず手伝ってくれるロボットだ」
「どう使うんだい」
「なに、常に肌身離さず持っていればいい。そうすれば君が抱えている仕事を勝手に察知する。君も気付かないうちに片付けてくれるよ」
「それはいいなあ。だけど、高いんだろ?」
「いや、こいつは試作品でね。動作確認がまだなんだ。それが済めば企業に売り込もうと思うんだが。君が試してくれると、ありがたい」
「ならちょうどいい。しばらく借りるよ」
 男はロボットを受け取った。内心、半信半疑だった。ともかくスーツのポケットに入れて持ち歩くことにした。

 ロボットの効果は絶大だった。突然お願いされた資料作りも、得意先との取引も、人知れず男を手助けし、完璧に終わらせた。
 同僚や上司は男の急成長に驚いた。いったいどんな手品を使ったのかと、しばしば聞かれた。男はその度にはぐらかした。
 次第に男はデキる奴として認められるようになった。ロボットを借りてから、わずか1カ月で昇進した。ボーナスももらった。

 男は喜んだ。博士に報告すると、博士の喜びは男のそれより大きいものだった。
「ありがとう。これでロボットを売り込める。世界中の過労に苦しむ人々を救うことができるぞ」
「そんなに普及させるのか」
「ああ。なんせ、それだけ便利な発明だ。企業だって大々的に売り出すだろう。今に、このロボットを持っているのが当たり前になるぞ」
 博士は意気揚々としていた。しかし、男の心中は複雑だった。こいつが普及したら、俺の成長のからくりもばれてしまうな。

 そう思った瞬間、博士は音もなく倒れた。男は慌てて駆け寄った。死んでいる。外傷はなかった。急いで救急車を呼んだが、けっきょく、死因はわからなかった。重要参考人として警察に聴取された男も、じきに解放された。
 自宅で男はロボットを恐々と見つめた。こいつがやったに違いない。俺が今のまま仕事を続けるのに必要な仕事が、博士の殺害だったのだろう。
 しかし、証拠は何もない。このロボットのすることだから、今回も完璧な仕事をしたに違いない。男は黙っておくことにした。

 男はそれからも躍進を続け、遂に会社の役員にまで上り詰めた。明日は大事な取引先とのプレゼンテーションの日だ。「よろしく頼むぞ」。そう言ってロボットの頭を撫でた。
 ロボットから音声が流れた。「電池切れです。動作を終了します。対応はメーカーに問いあわせてください……」。
 明日までに男が作成するべき資料は、まだまっさらなままだった。

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