『Proof of existence』

「宇宙って不思議だよね。私達はどこから来て、どこに行くんだろう」

 東京郊外の湖畔、満天の星空の下。水面に足をつけた彼女は、瞬いた夜空に手を伸ばしてほうと息を吐いた。

「…宇宙の誕生はビックバンからだよ。それで…何も無かった所に宇宙が出来た」
「…ねえ、それっておかしいよ。何も無かったのに突然爆発が起きたの?」
 夜空を見上げたまま溶けそうに、消え入りそうに紡がれた声。
 星明りに照る横顔は大人びた愁いを浮かべていて、僕の世界は一瞬だけその動きを止めた。
「…僕も勿論そうだけど、宇宙の誕生なんて誰にも分からない。今言われてる事だって全部推測に過ぎないし、もしかしたら…全部間違っているかもしれない」
「それは違うよ」
「…?」
「君がそう言うのは、誰も知らない事だからでしょ?確かに、今の科学は正しい事だらけじゃないかもだけど…それでも一つだけ、間違いないって思える事があるでしょ?」

「私達は今、確かに生きてるんだって」

 全部間違ってたら誰もここにはいないよ、なんて彼女は星原の隙間でそっと微笑む。
 ちゃぷりと遊ばせた足の先で、星を映した水面がさざめいて嗤っていた。

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