『アポトーシス』

「ねえ、『アポトーシス』って知ってる?」

 夕焼けの臨む屋上、高いフェンスのその向こう側。
 風を受けたまま佇んだ彼女は、燃える茜を眼鏡越しに捉えたままフッと息を吐いた。
「動物の発生過程の一部ではね、あらかじめ決まっていた細胞死が起きるの。それで私達の指は形成される…。『プログラム細胞死』って言うんだけどね、その中でも二つに分ける事が出来るの。周りに害を与えながら細胞死を起こす『壊死』、そして…周りに影響を与えずに死ぬ『アポトーシス』」

 …一瞬、だった。浮かべられた寂しそうな笑みと凛とした彼女の姿が、黄昏の虚空に融けたのは。
 慌ててフェンスにしがみついて地上を見下ろせば、綺麗に舗装されたアスファルトの上に、鮮やかな深紅に縁どられた白いマリオネット人形が手足を投げ出して横たわっていた。

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