『ふたり』

-ねえ、この家、へんだよね。いきなり真っ暗になったり、かと思うと急に明るくなったり。
-ああ、おねえさんが帰ってきて部屋に電灯をつけるからね。僕なんてうとうとしてたのに、まぶしくって目が覚めるよ。
-目を覚まさないと、ご飯食べそこなうよ。おねえさんが水槽をのぞきこんで、ご飯をパラっとまくでしょ。
-うん。「メダカ、ただいま」っておねえさんが話す声、けっこう好きだな。
-でも、わたしたちふたりなのに、名前はふたりまとめて「メダカ」なんて、失礼しちゃうわ。
-「メダ」と「カ」かな?
-そこまで考えてないんじゃない。
-この頃、だんだん寒くなってきたね。
-ついこの間まで、お日さまがかーっと水槽に差し込んで、水がぬるくなったのにね。
-あのときはつらかったな。のぼせそうだったよ。
-涼しくなって、すいすい泳げて気持ちよかったのにね。今度は水が冷たくて、動きたくないわ。
-「冬」がやってくるって、この間おねえさんがいってたな。
-「冬」になったらどうなるの?
-おねえさんが見ていたテレビをここからのぞきこんだときは、地面がまっしろになって、空からも白いものがいっぱい降ってた。人間は厚い服を着てたよ。
-でも、わたしたち服がないわ。白いものが降ってきたらどうしよう。
-降らないんじゃない。ここ、家のなかだし。
-ね、空を見て。空がまっ青。白い雲がふわっと浮かんでる。
-いわし雲だって、おねえさんがいってた。
-いわし?めだか雲じゃないの。
-聞いたことないよ。
-なんだか眠くなってきたわ。
-僕も。ひとねむりするよ。おねえさんがご飯をくれるまで。
-ねえ、早くまた、あったかくなるといいね。
-うん。すいすい泳ぎたいなあ。
-じゃあ、おやすみなさい。
-おやすみ。

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