『蓮華と刃』

「これでお揃いだね。思った通り、やっぱり似合ってるよ」

 細い指先でかちり、と音を操ると、僕の首筋をとんとんと叩いた彼女は満足そうに嗤った。
 月影を浴びる口元のピアスと、真っ赤な唇から覗いた牙。…歯並びに自信がないといつか落ち込んでいた八重歯は、今では彼女の狂気をかき立てるだけのものになっていて。
「…君の方が似合ってると思うよ。首…細いから映えてる」
「私は女だからだよ。…でもね、いくら君が褒めてくれても、私は一人でつけるだけじゃ嬉しくないの。君がくれたチョーカー、本当に綺麗だったから。だから…ずっと、大好きな君と一緒につけてみたかったんだ」
 …いつから、彼女は歪み始めていたんだろう。彼女と付き合い始めた三年前、少なくとも彼女はこんな人格じゃなかったのに。

「ねえ、知ってる?首への口付けは『執着』なんだよ」

 窓から差し込んだ蒼の中で、不気味に歪む赤と恍惚とぎらつく二つの狂気。
 がぶり、と伝わった首筋の痛みに息を吐きながら、僕は劣情を湛えた哀れな彼女の頭を撫でた。

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